ベイカー

容疑者はかなりの数がいる。もう観客も入っていたからね。スタッフと合わせて数百人だ。まったく犯行時間がわからないからね

じゃあ死体の状態

ベイカー

せっかちだな。死因はひも状のものによる絞殺。首に出ていた鬱血(うっけつ)から自殺ではないと判断された。後から機材のケーブルを使ったと判明している。タロットマンが控室に入ったのは11時前。廊下に立っていた警備員が確認している。これが最後の確認になっている。ステージを除いてはね

その時間の容疑者たちのざっとした行動は?

すごく真剣な顔だ

 ベイカーさんに質問するたびに小岩くんの目の鋭さが増していきます。あんな表情を私は一度も見たことがありません。

ベイカー

スタッフは設営だな。昼食も作業をしながら軽食をそれぞれでとっていた。あとは警備員が入り口をチェックしていた。会場の職員は全員事務室にいたと証言がある。観客はもちろん客席だな。ただ観客とスタッフは数分消えたところで気がつかれないだろうな

さっきからもったいぶっている。その容疑者のことを話せば答えがわかってしまう、とでも言いたげだ

ベイカー

うーむ、やはり簡単すぎたか。トリックと呼ぶほどでもないからな

ちょ、ちょっと待ってください! 小岩くんはもうわかったんですか!?

当然だろう。死体がステージに上がるわけがない。それとも奇跡が起きた、なんて言うつもりかい?

 さっき口に出さなくて本当によかったと思います。これで奇跡みたいなんて私が言っていたら小岩くんの顔に一生消えないしわがつきそうでした。

それじゃトリックについてだけど

ちょっと待ってください!

なんだい。それとも君も推理ができたかい?

まだ全然わかりません!

ベイカー

自信満々に言うなぁ、この娘

 私だっていつも推理小説を読んでいるのです。小岩くんには敵わなくてもただ答えを聞いているだけでは面白くありません。

私も考えるのでヒントください!

答えは聞きたくないのにヒントは欲しいのか。君は本当におかしな人だね

いいんです! 早くしてください

ベイカー

やれやれ。でも焔といいコンビになりそうじゃないか

僕にそんなものは必要ない

ベイカー

まぁまぁ、照れるなって。じゃあ容疑者を挙げていこう。11時からステージの始まる1時までに控室に行ったのは4人だ。控室のある2階の階段には警備員がいたから間違いない。タロットマンも通っていないから他の階には行っていない

ベイカー

まずは11時にタロットマンの昼食を持っていったスタッフ

スタッフ

昼食のお弁当を持っていきました。もう仮面はつけていましたよ。というか素顔は晒さないということで控室に入る前から仮面をつけていました。特におかしな様子はなかったですね

ベイカー

それから12時過ぎ。マネージャーが最終確認のために控室に向かっている

マネージャー

その日の体調なんかの話をいくつかしました。売れてきたのは最近ですが、ベテランですから私も細々としたことは聞きません。世間話をするくらいですよ

ベイカー

次に12時40分頃。アシスタントが控室に入った

アシスタント

アシスタントの仕事は先生の書いたメモの内容を読み上げることです。タロットマンは話さないという設定なので、占いの内容は私が読み上げます。
テレビだと事前に占ったものをテロップやモニターに映してもらうんですけど、今日は生でやるので。その後はずっと控室にいましたよ

ベイカー

最後にステージに出てもらうために呼びに行ったスタッフだ

スタッフ

はい。控室で黙って座っていました。特に変なところはなかったですよ。死んでいたはずありません。ステージに上がってからも特におかしなところはなかったですね

 うーん。聞いていてもみなさん自分の仕事をきちんとこなしていてすごいなぁ、というばかりです。この内容すら聞かずに、小岩くんはトリックがわかって言うんでしょうか?

四話:死者のステージ(事件編)Ⅲ

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