【2035年、イバラキ。桜ココア】
【2035年、イバラキ。桜ココア】
いんじゅ、じゃなかった。御嬢ちゃんは何処から来たの? もしかして迷子?
ガシッ、とキャッチ。美淫獣シャウラちゃんを保護する。鋭い爪を振り回しバタバタしてるが気にしない。シャウラちゃんは私の胸元から顔を出して呻いた。
シャウラちゃんは迷子じゃないわ。
手を大きく広げて訴える。夜空に小さな弧を示した。
シャウラちゃんは、世界を統べるチカラを手に入れに来たの。
よくは解らないけど、大事な物を探しているみたい。腰のポーチから色々なものを出して何かを伝えようとしている。とりあえず頷いておく。
な、なるほど!
説明を続けようとするシャウラちゃんの頭をわしわし、と撫でる。この手にシャウラちゃんが噛みついた。赤ちゃんのような甘噛みに思わず頬が緩む。
そこに、私達の交流を中断させる言葉が在った。
abigutyugutyu!
だ、誰!
黒い四つ足の獣型のナニカが居る。お父さんの知り合いかな? 子供だましのお芝居に驚いたりする年じゃないのに……。
……何所にチャックがあるんだろう。四方から黒いトゲトゲのスーツを見渡す。
abigutyugutyu!
あびぐちゅぐちゅ?
そんな『テンプレ文句』の怪人、最近の特撮に居ただろうか? ぱっ、とは思いだせない。私の腕から抜け出しシャウラちゃんが飛び出した。
来たわね『ガイア』のゴミクズ共! このシャウラちゃんが退治すてくれるわ!
威勢よく立ち向かうシャウラちゃんも『アクターさん』の演技には敵わない。
abigutyugutyu!
や、やっぱりやめようかしら。あんた、シャウラちゃんの代わりに戦いなさいよ!
私の背後に廻り、その鋭い爪で彼?を指差した。
え、えー! 私? そ、そんな事言われても! って、これ、番組じゃないの?!
abigutyugutyu
黒い四つ足の身体が二足立ちに成り大きくその身を膨らませた。その高さは、10mを軽く越える!
何が起きているのか理解できない! 影が大きく迫る。『私、食べられちゃう!』 そう思って目を閉じた。なのに、
いつまで経っても痛みが来ない。恐る恐る目を広げた。
大丈夫ですか? 姫。
眼の前に整った顔が、流れる煉瓦色の髪が、黄色がかった瞳が在る。
遥々(はるばる)やって来たかいが在った。大事な姫をこのタイミングで護れてよかった。
身体がその腕に抱きかかえられていた。
あ、アナタは?
彼の横顔に思わず見入る。胸高鳴るこの気持ちは何なのだろう。シャウラちゃんが頬をつつくけど気にしない。追い払い彼を見ている。
『ガイア獣』。お前の相手はこの私『アリオス・ロージディア』だ。
……アリオス。
――ここで見ていてください。
木のベンチへ降ろされる。
アリオスは背の鞘から長剣を抜き、その露を払った。
顔が熱に満ちていく。
降ろされたベンチの上、黒い巨体に立ち向かう彼を、『アリオス・ロージディア』の黄色の眼差しを見ていた。その眼(まなこ)の光を、
……。
――私はずっと視ていたかった。