【2035年、イバラキ。桜ココア】

ココア

いんじゅ、じゃなかった。御嬢ちゃんは何処から来たの? もしかして迷子?

 ガシッ、とキャッチ。美淫獣シャウラちゃんを保護する。鋭い爪を振り回しバタバタしてるが気にしない。シャウラちゃんは私の胸元から顔を出して呻いた。

シャウラちゃん

シャウラちゃんは迷子じゃないわ。

 手を大きく広げて訴える。夜空に小さな弧を示した。

シャウラちゃん

シャウラちゃんは、世界を統べるチカラを手に入れに来たの。

 よくは解らないけど、大事な物を探しているみたい。腰のポーチから色々なものを出して何かを伝えようとしている。とりあえず頷いておく。

ココア

な、なるほど!

 説明を続けようとするシャウラちゃんの頭をわしわし、と撫でる。この手にシャウラちゃんが噛みついた。赤ちゃんのような甘噛みに思わず頬が緩む。



 そこに、私達の交流を中断させる言葉が在った。

四つ足

abigutyugutyu!

ココア

だ、誰!

 黒い四つ足の獣型のナニカが居る。お父さんの知り合いかな? 子供だましのお芝居に驚いたりする年じゃないのに……。



 ……何所にチャックがあるんだろう。四方から黒いトゲトゲのスーツを見渡す。

四つ足

abigutyugutyu!

ココア

あびぐちゅぐちゅ?

 そんな『テンプレ文句』の怪人、最近の特撮に居ただろうか? ぱっ、とは思いだせない。私の腕から抜け出しシャウラちゃんが飛び出した。

シャウラちゃん

来たわね『ガイア』のゴミクズ共! このシャウラちゃんが退治すてくれるわ!

 威勢よく立ち向かうシャウラちゃんも『アクターさん』の演技には敵わない。

四つ足

abigutyugutyu!

シャウラちゃん

や、やっぱりやめようかしら。あんた、シャウラちゃんの代わりに戦いなさいよ!

 私の背後に廻り、その鋭い爪で彼?を指差した。

ココア

え、えー! 私? そ、そんな事言われても! って、これ、番組じゃないの?!

四つ足

abigutyugutyu

 黒い四つ足の身体が二足立ちに成り大きくその身を膨らませた。その高さは、10mを軽く越える!

 何が起きているのか理解できない! 影が大きく迫る。『私、食べられちゃう!』 そう思って目を閉じた。なのに、





 いつまで経っても痛みが来ない。恐る恐る目を広げた。

アリオス

大丈夫ですか? 姫。

 眼の前に整った顔が、流れる煉瓦色の髪が、黄色がかった瞳が在る。

アリオス

遥々(はるばる)やって来たかいが在った。大事な姫をこのタイミングで護れてよかった。

 身体がその腕に抱きかかえられていた。

ココア

あ、アナタは?

 彼の横顔に思わず見入る。胸高鳴るこの気持ちは何なのだろう。シャウラちゃんが頬をつつくけど気にしない。追い払い彼を見ている。

アリオス

『ガイア獣』。お前の相手はこの私『アリオス・ロージディア』だ。

ココア

……アリオス。

アリオス

――ここで見ていてください。

 木のベンチへ降ろされる。

 アリオスは背の鞘から長剣を抜き、その露を払った。

 顔が熱に満ちていく。
 降ろされたベンチの上、黒い巨体に立ち向かう彼を、『アリオス・ロージディア』の黄色の眼差しを見ていた。その眼(まなこ)の光を、

ココア

……。

 ――私はずっと視ていたかった。

【第2話】露払う太刀。

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