【????年。柊なゆた】

 城を遠く望む地で私は吐いた。苦しくて、どうしようもなく悔しくて。溢れるものが抑えられない。

 ――雪さんを救えなかった。それが苦しい!!
 足が零れ落ちた涙で染みる。身体以上に心が痛かった!




 そこに、――何故だろう。場違い感溢れる排気音が近づいてきた。

サトウさん

みんな無事だった?!


モカ

新聞屋しゃん?

壱貫

何故お前が!



 涙でその姿が上手く確認出来ない。それでも一縷の奇跡を望んでしまった。

 ばうばう、にゃーにゃー、家族の声を受け止めてサトウさんが笑う。

サトウさん

わ、わたし? わたしは……



 サトウさんの長身の背後に、疲れきった男性とため息を吐く女性が現れる。それは、いつもサトウさんと共に居た人、サトウさんを中心に微笑んでいた2人だった。

スズキ

なゆたさんの御自宅で寝ていたところを僕らが見つけたんです。お腹が空いて動けないとか、なんだかんだ言って困らせるんです。



 皆を代表して言葉を紡ぐ。未だ理解が追い付かない。

なゆた

だ、だって存在の石を由香ちゃんに手渡して……


 サトウさんが外れた仮面を抱きしめ語った。

サトウさん

別次元のわたしが石を持っていてくれたから、……実はわたし大丈夫だったの!


 偉そうに平らな胸をのけ反らせる。それは、

 ……1つ、たった1つの希望だった。何も残らないこの世界に在った、1粒の煌めきのように思えた。

 帰る旅路の途中でサトウさんは由香ちゃんを、2033年の茨城へと連れていった。

 破壊されヒトも疎らな地に由香ちゃんの細い足が降り立つ。

由香

由香ね、絶対にお母さんを取り戻す! 会いに行く! そして、そしてね。
 これから大事な誰かを助けなきゃいけない。そんな気がするの。会わなきゃいけない人達が居る。そんな気がするの!



 由香ちゃんは振り返らない。その強い意志をもった瞳が、どこまでも煌めいていた。

……。

由香

これからよろしくね。リーダー!

……お前、本当に使えるのか?

由香

な、なんでもお仕事するから!! お願い!

 由香ちゃんを下ろした地、その差し迫る夕暮れの中で移ろいゆく空を眺めた。流れゆく雲を横に、この長い1日を振り返る。それは幾千の想いと一切の虚無が混ざり合うような、笑顔で知らず泣いてしまうような、そんな気持ちに私をさせた。

なゆた

これから、どうなるの、かな?



 背を合わせたサトウさんが答える。

サトウさん

この世界は1度終わらせます。



 彼女は言った。繰り返し弄られた時間を、一度元の姿に戻さないといけない、と。

サトウさん

導きの園に遺されたチカラを用い、なゆたと真紅さんの出逢い、その全てを無かった事にします。



 それはモカちゃんと私の、――永遠のサヨナラを意味した。

なゆた

1つだけ、質問、いいかな?

サトウさん

どうぞ♪


 私は背中の温もりへ1つの疑問を提示する。

なゆた

貴女は、……私のお母さん?

 ……その背中が私に応える事は無かった。彼女はただ、ずっと、じっと其処に居てくれた。

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