【????年。柊なゆた】

 倒れた『ダドさん』に呼応するかのように、城が激しく揺らいだ。『ダドさん』に倣うように建物が悲鳴を上げている。この『導きの園』の最期を、私は目で、耳で強く感じた。

壱貫

なゆた行くぞ!


モカ

なぅ! 早くでしゅ!



 動く事もツライ2人が私へ、その傷だらけ膨れ上がった腕を伸ばす。

 私には『ダド』と呼ばれた彼の表情が忘れられない。その表情が強く記憶へ焼きついている。
 多くの生き物を殺したヒトなのかもしれない。けれど、彼の生き方は……無条件に悪い、と思えなかった。

 モカちゃんを見つめた彼の笑みに私はシンパシーを感じていた。

 子犬子猫のみんなが、モカちゃんを、いっくんを、由香ちゃんをその背に乗せて待っている。『ダドさん』を救う余裕、外へ運び出す手段はもう、……ありえなかった。


 一際大きな瓦解音が響く。『いっくん』に腕を強く引かれる。子犬達が駆け出した。

 何故だろう。――私達と逆に進むヒトが居た。

なゆた

ゆ、雪さんっ!



 雪さんが『ダドさん』の前に座っている。崩れ落ちた岩盤が『雪さん』と私を遮る。夢中で伸ばした手の先、モカちゃんに抑えつけられた身体の向こうで『雪さん』が『ダドさん』を守るように岩の塊を受けている。手が届かない!

なゆた

雪さーーーんッ!!



 私の声に気が付いたの?
 崩壊する建物の奥で崩れた天井に打たれながらも親指を立てていた。最後のお別れをするかのように私へ微笑んでいた!!

……さよなら、なゆ。


 嫌なのに、……私にはその声がハッキリと届いた。

【????年。レッドボーイ】

レッド・ボーイ

……辿り付けたよ。やっと、



 ――両腕を失いながらもなんとか此処へ辿り着けた。『マム』が死して父さんの体を護ってくれた。『マム』には感謝しきれない。

ピンク・ガール

……あんた生きてたの?



『ガール』も居た。その事実に心底呆れた。

レッド・ボーイ

お前こそ見逃されたのか? あのデカブツに。



『ガール』は苦笑いする。

ピンク・ガール

……壊されちゃった。


レッド・ボーイ

何を?



 肩を落として『ガール』は話した。

ピンク・ガール

『ライセン』の全ての弾丸。それを跡形も無く。



『桜壱貫』というあの男が75方位から『ガール』を襲う弾丸、その全てを壊したと云う。

レッド・ボーイ

……死ぬ『自由』すら壊された、……か。


ピンク・ガール

上手いこと言うわね、あんた♪



 2人で嗤う。悔しいが、でも何故か満たされた気がした。
 休む父さんの前で『マム』も幸せそうに眠っている。

レッド・ボーイ

……。

ピンク・ガール

……。


 俺と『ガール』は、いつものように親指を立てあった。父さんの左側に『ガール』が、右側に俺が立つ。正面は『マム』に、これからもお願いしよう。

 大きな塊が『ガール』の上に落ちた。『ガール』がその役割を俺に託す。俺はそれを確かに受け取った。

レッド・ボーイ

父さん、俺達を拾ってくれてありがとう。死んでも、俺達は父さんを愛しているよ。

 鉄塊が頭を打ちつける。耐え、父さんに折り重なる『マム』と『ガール』を覆うように立つ。刺さり貫く塊を全身で受けながら、

シュークレン

みんな、よく頑張ってくれたね!

黒髪の少女

はい!

栗色の髪の少女

当然よ♪

赤髪の少年

もちろんさ! 父さん!

 俺は、――家族に成ったあの日を思い出した。

【第35話】さよなら、父さん。

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