【『番外編』あの日のナユタの物語】

【2030年、柊なゆた】

なゆた

いっくん、私の事はもう諦めなよ。



 窓から夕陽が注ぐ中、夕食を作る『いっくん』へ言う。『いっくん』は鍋を振りながら、鼻を鳴らした。

壱貫

馬鹿を言うな。例え結ばれなくても、俺はお前と添い遂げる。

『いっくん』が具材を空へ放る。人参の赤が宙を踊った。



 バカだな、って思う。私が相手じゃ幸せになれないのに。きっと、幸せに成れる誰かが他に居るのに。

 外宇宙の民『ノア』が着て数年、私達の世界は変わってしまった。

 急激な人口増加に伴う食糧難。各経済と国の崩壊。

 私達が安寧に過ごした日本は今やもう無い。

 各地で暴動が起きた。ゲリラ活動が蔓延し、日本、いや世界的に見ても全てが滅茶苦茶になった。

 だから私は『なゆちゃん王国』を起ち上げた。どんな生き物でも、もちろん『ノア』の人も含めてみんな一緒に、幸せな国を創れるように。

 護るべき土地で、たくさんの略奪行為が在った。

 誰も悪くない! 手を取り合って生きていこう!

 私達は伝え歩いた。皆が協力し共に歩んだ。

 そして『なゆちゃん王国』は少しずつ大きくなった。

 5月、さめざめと雨の降った日の翌日、私は『ヒタチナカ』の海岸で見つけた。

 キレイな青いポリバケツを。運命的なものを感じた。きっとあそこにも守るべき人が居る! そう思った。

 助けを待っている、私の家族となる誰かが!

真紅

……っ!

 駆け寄り開けたバケツの中には、――痩せ細った女の子が居た。彼女は生きたがっていた。生に執着していた。

 母を、――私を求めていた。

 それが私と彼女『真紅(まあか)』の出会いだった。

 私達『なゆちゃん王国』のみんなを『いっくん』が全身全霊をかけて支えてくれた。王国の皆のどんな貧困にも『いっくん』は食料を揃(そろ)え応えてくれた。

 自分は食べなくても、真紅に、私に、家族のみんなに食べ物と笑顔を与えてくれた。

なゆた

――そんなに私と結婚したいの?



『いっくん』が頷く。

 思案し私は1つの料理を彼に提供した。

なゆた

胡瓜とキャベツの千切り、マヨネーズかけデラックス、2つでどう? 食べられたら考えてあげる。



『いっくん』が嫌いなマヨネーズをたっぷりと掛け、その器をお盆へ乗せる。貴重なマヨネーズを『いっくん』は愛しそうに口へ含んだ。『いっくん』はその白をゆっくりと噛みしめる。

 そして爽やかに微笑んだ。

壱貫

美味い!! こんな美味い料理を食べられる男は世界一の幸せ者だな! なゆた、俺と結婚してくれ!



 イイと思った。こんな彼がイイと思った。彼にこの人生を託そうと思った。

なゆた

じゃあ『真紅(まあか)』が年頃の女の子に成長したら、結婚したげる!



 笑ってみせる。

 そして、真紅(まあか)が幸せな生活を送れるように、私達の手で送る事が出来るように、そして私自身も幸せになりたいと願って、

 私は想いをキスに託した。

なゆた

大事にしてよ? 大事にしないと、私死んじゃうからね? 大事に……



『いっくん』は私を腕に包んだ。温かく、たくましい腕の中、私は目を閉じる。

壱貫

ああ、世界一幸せにしてやる。だから覚悟しておけ!



 ああ、幸せだ。

 ずっと一緒に、みんな一緒に、ずっとみんなで一緒に居たい。

なゆた

……。

 私は想った。やがて結婚して、子供が産まれて、

 いっぱいたくさんの子供達と、真紅と、『いっくん』と、みんなで綴る幸せな毎日が私を待っている。

 それはもう待っているだけの夢じゃないのだ。

【2034年、柊なゆた】

 婚約の誓いを立てて4年が経過した。今、この『ヒタチナカ』の地に『ホーム・ホルダー』の軍勢が攻め入っている。

なゆた

行くよ! ファジー!


青輝石ファジー

【OK! なゆちゃん!】



 みんな、『なゆちゃん王国』のみんなを守ってこの夜が明けたら私は『いっくん』と一緒になる!

 この夜が明けたら真紅は12歳。私は『いっくん』と結婚する。絶対に負けられない戦いだ。

 付け耳型・戦略兵器『ファジー』を纏い、背部跳躍ユニットを展開、私は空を駆けた。

 心が洗われるような真っ赤な空。それはきっと『真紅』と私、『いっくん』と未来の子供達、みんなが紡ぐ希望の色だ!

 流れる雲を抜け、敵を追い、銀の刃を振るう。私は未来(さき)を目指して飛んだ。

なゆた

……!

 先へ、望んだ先へ。私達の未来へ。真っ赤な陽が遠く地平を染めている。

 きっと繫がる家族の世界を夢見て、私はどこまでも高く願いを叶える為に飛び続けた――。

【『番外編』あの日のナユタの物語・完】

【番外編】あの日のナユタの物語。

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