【????年。柊モカ】

『ブラック・ダド』は何故か立ち尽くしていた。ボクを淡々と見下ろしている。

 歩を進める『いっか』をボクは止めた。



 何故だろう。

 ボクが戦わないといけない。そんな気がした。

 この人とはボクが向き合わないといけない。そう思った。

 ボクは片腕を失った彼に話しかけていた。

モカ

ボクは、ボクは貴方を殺します!

『ブラック・ダド』はただ、ボクを視ていた。

モカ

貴方が殺した皆を救う為に! これから危険に晒される皆を守る為に!

ブラック・ダド

……1つ教えておこう。真紅の狩人。


 諭すように『ブラック・ダド』がボクへ語った。

ブラック・ダド

守りたいなら、最強の戦士である私を越えろ! 守りたい気持ち、愛しく想うモノを強く胸に描け! そして、呼びなさい。


 彼は先生のように敵であるボクに教えた。

ブラック・ダド

皇器『王留』。と


 そして、その片腕に持った刃を手の延長線上に構える。

ブラック・ダド

でなければ、私が全てを滅ぼすよ。キミの家族、友達、眼に映る全てをね。

モカ

ああぁぁあ!!!


 守りたい! 救いたい! チカラが欲しい!

『マァマ』に、大きな『いっか』にもう一度逢いたい!!

 逢ってまた、カレーの鍋を囲みたい!

モカ

来なしゃい!


 ボクは残った片腕を空へ翳した。

モカ

最強のチカラ! 皇器、『王留』!!!


 左手に握った『ゲイボルグ』が金色の長刀に替わる! 金の煌めきが体を覆い鎧と化す。

『フリーシー』の犬耳にチカラが戻っていく。ボクはただ真直ぐに駆けた。

モカ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


 想ったのは、


『なぅ』と交わした笑顔の記憶。


『いっか』と交わした掛け替えの無い日々。

 夕陽に煌めく小さな、砕け散ったカレーのルー。たくさんの大事な思い出だった。

 金色の刀を払い地面を蹴った。ボクは『王留』を宿した『フリーシー』のチカラで子供だけが歩める灰色の空間を駆け抜けた。

壱貫

いけーーーっ!! モカーーっ!!

 子供の世界から取り残された『ブラック・ダド』はずっと、ボクを見ていた。

ブラック・ダド

……。

 何故だろう。その眼差しは虚ろに、でもどこか優しく感じられた。

 何故だろう。その残された片腕はボクが近づくのを待っているように伸ばされていた。



 ……何故だろう。ボクは、彼を、――知っているような気がした。

赤輝石フリーシー

【3.2.1.】


『フリーシー』が創る子供の為の空間で、ボクは父の名を冠した男を、斜めに切り裂く。

赤輝石フリーシー

【0.Afterburst!】

 彼『ブラック・ダド』が血を噴き後方へ倒れていく。ボクを見ていた瞳が閉じていく。血を撒き仰向けに倒れた彼が最後、

ブラック・ダド

『――マァサ』


 ……と、誰かの事を呼んでいたように思えた。

【第34話】最後の太刀。

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