砂埃を上げ派手に倒れる男。
左手には半切れのパンを握り締め、がむしゃらに立ち上がる。
ここはディープス市民区メインストリート。往来の真ん中で騒がしい男は、50を過ぎた頃だろうか。ボロ切れを纏い衆目の視線を独り占めにしている。
後ろから、市民区の治安を守る衛兵が2人、追いかけてきている。
男は店先にあった半切れのパンを盗んで逃走中だった。疲労困憊の身体に鞭を打ち、走り続ける。だが、衛兵が投げつけた捕縛道具に足を絡め取られ、捕り押えられてしまった。
男は悪あがきでジタバタ暴れ回ったがどうにもならず、最後の抵抗で左手に残った砂まみれのパンを信じられないスピードで胃の中に収めた。