どれだけ贔屓目に見たって、ガキ捨てて鍛冶ばっかやってきた変人……、それがおれ。







 ガキが幾つになったかも覚えてないし、もしすれ違ったって分からない。いざとなりゃ、田舎に帰りゃ顔くらい拝めんのにそれもしない。




 情けないことに、この瞬間になっても、ガキの顔だけでも見たいって願望すらない。親失格どころか、その親という土俵にすら上がってない。情けない限りだ。




 オヤジの言うことも聞かず、田舎飛び出し、勝手ばかりしてこのざま。大人しく殺される方が楽になれるってもんっしょ。

重臣

やはりすり替えていたか。
即刻、獄へ繋げ。

女王

あの鍛冶師を
どうするつもりだ。

重臣

ご安心を。
あのような輩の扱いは
私にお任せください。

女王

事情を聴いた後でも
よいのではないか?

重臣

我が王は慈悲深い。
あのような輩にも
優しいご配慮を。

重臣

……ですが、
やはり罪は罪。
大方、社会にあぶれた
クズのような存在。

 確かに。一つも間違ってない。この重臣の言う通り、おれはクズだ。

女王

だがあの偽物の剣を
打ったのが君なら話は別だ。
クズにあのような剣は作れぬ。

ジエン

そ、そんなにあの剣の出来を
評価してくれたんですね。

女王

無論だ。

ジエン

だけどそこの重臣の言う通りで、
おれは本当にクズです。
自分のガキ捨ててまで
鍛冶ばっかりしてきた
ろくでなしなんだ。
否定できやしねぇ。

重臣

…………

ジエン

だが偽物って言葉は
訂正してくれ。

女王

ん?

ジエン

それは複製品であって
偽物じゃない。
おれは主に刀を打つ鍛冶師だが
その剣に込めた思いは
決して偽物じゃないんだ。

重臣

盗人の分際で偉そうな口を
ききおって。

ジエン

女王さん……、
訂正を。

女王

確かに君の言う通りだ。
あれほどの剣を手にしながら
軽率な言葉で君の尊厳を
傷付けてしまった。
……申し訳ない。

ジエン

ありがとうございます。
これで心置きなく
獄につけるってもんだ。

重臣

もうよい、
牢獄へ放り込め。

女王

まだだ!
まだ私から君達に
聞きたいことがある。

重臣

!!

女王

何故ジュヅヴァが必要なのだ?
君ほどの鍛冶の腕を持っていれば
食うには困らんはずだし、
リスクが大きすぎる作戦だ。
何故だ?

コルティアース

宝剣ジュヅヴァは
古代から伝えられた神剣。
この国の前身である
イシュトベルトに代々と
伝わってきたものだろう。

女王

うむ、そうだ。

コルティアース

只の剣ではなく
特別な力が備わっている。
そう伝えられているはずだ。

女王

それで?

コルティアース

だがその力の向かう先――
それは伝えられていないはず。

女王

まさか知っているのか?
君達は?

コルティアース

城塞都市ディープスの地下迷宮、
それは知っているか?

女王

無論だ。
遠く離れていようと
知っているぞ。
この国も落ち着いてきたことだし
私も探索しようとしたが
この男に止められた。

重臣

当然です。
一国の王が挑むべきは
そのような場所ではありません。

女王

大概の忠告は
右から左へ捨て流すが、
この件に関しては、
「聞かねば死んでやる」
と騒ぎおる。
流石の私も参ったのだ。

ジエン

あんたも苦労してそうだな。

重臣

日常にすぎん。
……で、話は終わりか?

コルティアース

その地下迷宮の最奥にいる魔物、
そいつには如何なる武器も
通用しない。
我々は長年の調査で
その問題を解消する答えに
辿り着いたのだ。

ジエン

それがジュヅヴァらしい……。

重臣

世迷言を。
冒険者などと息巻いて、
英雄の真似ご……

女王

何故それを
早く言わんっ!!

ジエン

ウヒィッ!!

女王

そんな理由があれば
さっさと貸してやったものを。

ジエン

え!?

 な、何言ってんの?? この人?

女王

ジュヅヴァを貸してやると
いっているのだ。
文句あるまい。

重臣

何を言っているのです!
国宝を素性不明の者に
貸すなどありえません!

女王

だからうちの鍛冶師に
この者を迎え入れると
言っておるだろう。
うちの鍛冶師なら
身内も同然。その仲間も
我らが仲間であろうが。

重臣

認めません!!
そもそもこの者達は、
どこの馬の骨かすら……

コルティアース

若造、逆に考えれば良い。
この素晴らしい剣を
貸してもらえるとな。

重臣

調子に乗るなっ!!
許さん!
即刻処刑にしてくれる!

女王

そこまで反対するか……。
ならばこの者達を処刑しよう。

重臣

御意のままに。

女王

そしてやはり気になるので
私自身がディープスに
向かうとしよう。
先程の話を聞いたら
じっとしておられんからな。

重臣

なりません!!
何度言わせれば気が済……

女王

ではこの者達に
調査させるのが
一番であろう。

重臣

っぐ……
ならば配下の者に
まず調査をさせて……

コルティアース

調査に掛かった時間は
50年近い。
それだけの情報を
配下の者が扱いきれるか……

女王

この者達を処刑し私が行くか、
国宝を預けて
優秀な人材を得るか。
どちらに理があるだろうな?

 こうしておれがこの国に留まり、コルがジュヅヴァを預かりディープスに戻ることになった。



 レプリカを作り、このジュヅヴァ入手までがおれの使命だったから問題ないっしょ。ディープスから遠く離れたこの地で、鍛冶をするのも悪くない。

 少々、いや、かなりこの女王さんには手を焼きそうだけどな。それにめちゃくちゃな女王さんに見えて、懐は深い。おれみたいなクズを受け入れてくれるなんて。









 この人の元で働けば…………、










 おれも胸張って会えるだろうか……

ジエン

元気してっかな。
ジジイ……、
ハル…………

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