【????年。柊モカ】

モカ

お、お前! よ、よくも『いっか』を!!!!

 横たわる『いっか』の隣りを駆け抜ける。もつれる足をなんとか前へ!



 ボクは、――宿敵『ブラック・ダド』を前にした。

モカ

ボクは、お前を殺して! みんなを救う!

ブラック・ダド

御託はいい。来たまえ。


 振り降ろした刃の前に、

 ソイツは居なかった。振り返り剣を振り切る!

 居ない。

 見回すのに居ない! 何処にも『ブラック・ダド』が居ない!!

ブラック・ダド

話にならないな。ソレが、救世主『真紅の狩人』のチカラかい?

モカ


 この瞬間、『ブラック・ダド』は眼前に居た。背筋が凍りつく。

モカ

ボクが負けたら! 誰が! 誰がこの世界を守るんでしゅか!! 大人しく死になしゃい!!

 刃がその右腕に阻まれた。それはとてつもない硬さを以って剣を封じた。

 死ねない! 死ねない!! シニタクナイ!!

 誰も、誰も死なせたくない!!

ブラック・ダド

……。


 溢れる涙を、ソイツは笑った。

 背後で地響きのような音が起こる。恐らく『ホーム・ホルダー』の人達だ! 早くコイツを殺さないと! 殺さないと全てが間に合わない!



 何度も、何度も、『ブラック・ダド』の腕を打つ!

 この拳がチカラに成りえない! その事実がボクから希望を……。





『ブラック・ダド』が声を漏らした。

ブラック・ダド

誰かと思えばキミか。若き聖女。

 振り返った其処に居たのは、



『ホーム・ホルダー』の人間では無く、


なゆた

モカちゃん!


 傷だらけの『なぅ』だった。

ばぅ!

ふみぃ♪

みゃあ!


 犬くんや猫ちゃん達、ボクの『家族』だった。

モカ!


 剣を手に駆け付けてくれた……『雪』だった。

ブラック・ダド

何のマネだい。『マム』

『ブラック・ダド』。お願いがあります。


『雪』は『ブラック・ダド』を見据えて言った。

『ダド』。彼女達を、……選んでください。


 顔を伏せ『雪』は懇願した。



 けれど、『ブラック・ダド』が頷く事は無かった。『ブラック・ダド』がボクの剣『ゲイボルグ』を投げ放つ!

モカ

なぅ!!


 間一髪で間に合った。『なぅ』に刺さろうとした刃を残った腕を犠牲にして阻む。

モカ

あああッ!


 溢れる赤に意識が遠のく。ボクから、血が抜けていく。


 ――何処からだろう。――爆音が響いた。

ブラック・ダド

……生きていたかい。

 煙を吹いた拳が『ダド』の刃を打った。

壱貫

……死ねないな。


『いっか』だった。全身から血を流した『いっか』が其処に居た。

壱貫

まだ。死ねない。

 熱を帯びた『いっか』の腕が『ダド』の剣を、――破壊する。

 そして、『ブラック・ダド』の鋼の義手を握りつぶした。

壱貫

伝え足りん。愛する女にまだ、まだ、

モカ

……。

壱貫

……この想い、伝い足らん!


 いっかは、その大きな拳(てのひら)で『ブラック・ダド』の鎧を叩き壊した。

【第32話】この拳(て)よ、掴め!

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