【????年。柊なゆた】

なゆた

雪さん! 怖いのやめて! 私怖いよっ!



 止まらない。雪さんは真っ直ぐに歩を進めてくる。無言で私を見ていた。

 怖かった。どうしようもない程! けど、そんな私の叫びに応えたモノが在った。



 ――どうしてだろう。いつの間に乗り込んだのだろう。船の中から家族みんなの足音が轟いた。

わん!

みゃあ。

うにゅ♪

ばぅわ!

なゆた

ぶっち、みいちゃん、パブロフ! みんな、みんなぁぁ!



 私を助ける為に集まってくれた勇士に顔を向ける。どこまでも癒される想いがした。

 そんな私達を前に、雪さんの声が静かに響いた。とても悲しそうな音だった。

パープル・マム

私は、パープル・マム。時と世界の支配者たるブラック・ダドの脇に立つ者。玖条雪なんて、……初めから居ないのよ。



 雪さんの声に敢然と振り向く。母親の名を持つという雪さん、そんな意味は知らない。けれど別の、確かな意味を持って言い切った。

なゆた

居た!



 私には確かな想いが在った。私を見つめる多くの眼(まなこ)が私の視界、この、世界中に在る。私には強く在れる理由があった。

なゆた

雪さんは居たよ!



 腕を大きく振り降ろし雪さんに叫んだ。

なゆた

私の、モカちゃんの、いっくんの隣で、ずっと見守っていてくれたよっ!



 雪さんは淡々と言葉を吐いた。

パープル・マム

私はあなた達を欺くために、……居たの。



 私は想いを吐き続けた。

なゆた

笑っていてくれたよっ!



 腕で、拳の先で、小さく張った胸で言葉にした。瞳に溜まったモノを超え私は訴える。

なゆた

なゆ。そう呼んでくれたよっ!



 雪さんを視た。
 止まらない。止まりたくない! 私は身体全てを使って雪さんを手に入れたかった。

なゆた

私、雪さんのこと、



 伝えたかった。初めて愛しく思えた人に、この優しくも温かい気持ちを。強く為れる力の意味を。

なゆた

……大好きだよ! それは絶対だよっ!

……。

 その距離は2メートル。雪さんの指から白い凶器がゆっくり落ちる。その頬を優しい泉が伝い流れた。

【第29話】大好きな貴女へ。

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