【????年。桜壱貫】
【????年。桜壱貫】
鉄の城内部、金属のタイルに足音が響く。ちびの背を追い越し一里、俺の前方、小高い敷地にそいつが居た。
……来たわね。あんた。
アレと煙は高い所を好むというが間違いでは無いらしい。一目した後、足を踏み出す。……時間が無かった。
退け!
ピンクの篭手、鋼の胸当てで身を固めた『桃野恵』が指を突き出す。その足が鉄の床を打ち鳴らす。
あんたねぇ。ガールを雑魚扱いするなんてなっちゃいないわよ! ってゆ~か、ガール雑魚じゃないわよっ!
思わず眉が寄る。しかし、その奔放さはどこか『なゆた』に似ていた。
俺の姿を見た桃野が肩をすくめてみせる。
素手? ガールの事なめてんの?
腰に手を当て桃野が長く息を吐く。今にも落ちて来そうな頭上の星々へ俺は腕を翳した。
この腕に宿れ、黒熊。
大空から声が降る。それは俺の意識へ語りかけた。
【用意はいいかしら?】
頷く。黒きクマ耳は一瞬で鎧を成した。
……もちろんだ。漆黒の女神。
腕の先から5本の刃が伸びる。大気から響く声はおどけ笑った。
【懐かしい名前ね】
胸を張り、刃を空へ掲げる。
悪くはないだろう。
黒きバンダナが宙を流れた。
……この、俺に呼ばれるのだから。
桃野が高い位置から足を踏み鳴らす。構えた銃が空砲を放っている。
こ、こらぁぁ! ガール無視して何話してんのよぉ!
横目で眺め俺は頬を引きしめた。
行くぞ。ブロウ。
指の先、篭手の刃が大気を振り抜く。
【OK】
5つの刃は星の光に煌めいた。
【????年。柊なゆた】
赤い船の前方にぼやけた影が映る。モカちゃん達とは反対の方向から、影が揺らめき近づいてくる。星明かりが射す中を陽炎のように細い体躯が歩いてくる。
長い髪を風に孕ませ、濃紫のマントをはためかせ、その瞳が船の明かりに照らしだされた。
ゆ、雪さん。ど、どうしてここに居るの?
無言で歩を進めていた。私達に向かい靴音だけを響かせた。
……。
雪さんは口を開かない。白い剣を構え歩んでくる。
雪さん!
応えてくれない。私が見えていないのだろうか? そんなことは無い。絶対無いのに!
……やだよ。
私の声に答えてくれない。雪さんは近づいてくる。足音が一歩ずつ私達へ迫る。
嫌だよぉぉぉ!
雪さんの声が聞きたいだけなのに、――聞こえ、近づいてきたのは機械のように規則的な足音だけだった。