【????年。柊なゆた】
【????年。柊なゆた】
ここが、……『導きの園』?
2015年の茨城から飛び立ち捻じれる空を越え、私達はたどり着いた。
空は星々に埋め尽くされ陽の温もりは無い。
星明かりの下、荘厳な城が機械の丘に建っている。草花は無くただただ荒れくれた土壌が広がっていた。
『導きの園』を完全に書き換えた。……そういうことでしゅね。
宙を舞う木の葉すら、此処には無い。
――久しぶりだね。真紅の狩人。
土を踏む音に振り向く。赤い影が其処には在った。
消しておけばよかった。初めて逢った、あの時に。今はそう思うよ。
あ、貴方1人なの?
ああ、そうだよ。聖女なゆた。
そのヒト、片腕の戦士は剣を掲げ笑う。
狩人との勝負。邪魔されたくなかったしね。
……その言葉に思い当たる。
この地に降りて、人っ子1人、兵器の1つも目にしていない。
目の前にあるたった1つの影に、その1人だけの姿の意味に私はこのヒトの心を疑った。
俺と、正々堂々勝負しようじゃないか?
恐らく『レッド・ボーイ』と呼ばれるこの彼は、この地の仲間を――壊している。
隻腕の彼は絞り出すように声を吐き出した。
……会いたかった。
――狂戦士(バーサーカー)。そんな単語が頭に浮かぶ。仲間は、彼にとって必要ないものだったのだろうか?
会いたかったよ。真紅(まあか)。
フリーシー! 守護の衣を!
【Yes,master!】
放たれた黒剣を一瞬で現した剣『ゲイボルグ』で受ける。振るわれた黒き剣を前にモカちゃんの真紅のマントと同色のリボンが踊る。その声が空を駆けた。
いっか! 先に行くでしゅ! 『ブラック・ダド』を、全ての災厄を断つために!
その声を受け『いっくん』は役に立たない私達を押し遣った。
……なゆた。そして由香。お前らは船に隠れていろ。
厳しい表情は一転し、優しく微笑んだ。彼の指がこの額を軽くつつく。
後で迎えに行く。それまで船を守ってくれ。
私と由香ちゃんを交互に見渡し、彼は言った。
……お前達の仕事だ。出来るな?
私の頷きを確認すると背を向ける。風になびく赤いリボンへ話しかけた。
ちび、
その背がモカちゃんとすれ違う。
此処は任せたぞ。
『いっくん』の足が鉄の城に向けて駆けていく。
……。
……。
私は思った。いっくんは、幼馴染の桜壱貫は、
『――モカちゃんを好きなんじゃないかな?』って。
剣を交差させつつも頬を染めるモカちゃんを見て、私はそれがお互いの気持ちだと知った。
……遺言は済んだかい。
『レッド・ボーイ』が呟く。その体は居合の姿勢を取った。
剣の瞬きにモカちゃんの『ゲイボルグ』が弾かれる。あのモカちゃんが、剣技で抑え込まれていた。片腕の彼に。
なう! ボクを信じて此処は任せてくだしゃい!
上段に構えられた剣が『ゲイボルグ』を弾く。弾かれつつもその反動を利用して『ゲイボルグ』を打ち付ける。
……!
私もモカちゃんを信じた!
由香ちゃんの手を掴み走る。由香ちゃんの温もりを握り、私は船を守る為に駆けた。