Wild Worldシリーズ

コール歴5年
sky colors

第八話 星の下、夜の中

  

  

  

アルト

いつかは来ると思っていたんだ

 穏やかな表情。穏やかな声。

 リウトは、黙ってアルトを見つめていた。



 この場所はよく風が吹く。

 そのやさしい風に、花弁が舞った。

アルト

本当のこと、知っていたんだよ
僕が一体何者なのか
……レダ王も、僕を城へ呼ぼうとしていた

 どこか遠くを見ながら話し出すアルト。


 リウトは、かける言葉が見つからなかった。

 困ったように、アルトを見つめるだけ。

アルト

レダ王は王位継承を僕に譲ろうとしていた

アルト

……だけどね、僕は星が好きなんだ

 僕が王族だなんてにわかには信じられなかったしね
 断り続けていたんだよ

リウト

アルトが王族って本当なんだ……

 リウトがやっと言えたのはそれだけだった。


 アルトについての真実。

 大きすぎる、真実。




 リウトはそれを知ってしまった。

 今回アルトの元へやってきたのも、その真実を確かめるためでもあった。

リウト

アルトがセアト王家唯一の生き残り

アルト

……僕だって、最初は信じていなかったよ

アルトは穏やかにリウトを見つめる。

アルト

レダ王の手紙を何度も読み返していたら、それがどうしても嘘には思えなくなってきたんだ

リウト

……

アルト

いつかは城下町へ下りようと思っていた

リウト

アルト?

 アルトは風を受けながら、リウトの横を通り、歩いていく。

 リウトは慌てて後を追った。



 そのまましばらく歩き、やがて高台まで来ると、そこから森の姿を一望できた。

 アルトはそれを眺めている。



 

アルト

リウトがね、どういういきさつでこのことを知ったのかは分からないけど、僕は、僕の思うとおりに進むから

 それは、リウトと一緒に城へ行くという意味だった。

 ただし、誰かの手のひらの上なんかでは踊らない。

 そういう決意。

 アルトの、強い意思。



 アルトには、様々な人に利用されるだけの理由がある。



 生まれたときからミカエルの丘にいたのも、レダ王から手紙が届いていたのも、すべてはアルトを魔の手から守るためだった。

 アルトはレダ王の手紙によってもうそのほとんどを知っている。

 まだ、知らない事実は多少なりともあるにしても、今のアルトには今持っている情報量で十分だった。



 王位継承権だって、まだ残っている。



 そのアルトが城へ行くというのは、どれだけの覚悟がいるのだろう。

 好きなように星の研究をしていたアルトが、世間を知らないアルトが、運命に翻弄されている。



 リウトは、泣きそうになった。

リウト

うん。……ごめんね

アルト

どうして謝るの?

リウト

うん。でも……守るから

 リウトなりの約束。

アルト

あはは。僕に言う台詞じゃないね

 多くの人が動いている。

 様々な思惑の中、多くの人が……


リウト

これ以上、ユニのように誰かを失いたくない

 リウトは心で泣きながら、剣を取り血を流す覚悟さえしていた。











  

気になって、気になって、もう仕方なかった。

ユッカ

……ごめんね

 ユッカは、夜こっそりとテントを抜け出した。

 ウルブール族の守り石、ウル石をペンダント状にして服の下に隠してある。

 後はいつもの格好だけしている。

 荷物なんて何もない。

ユッカ

クローブさんの手の上で踊るわけじゃない
わたしはただ族長に、そう、族長に会いに行くだけ

 
 ユッカは夜の中、ウルブールの村を出て、北を目指す。










  

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