Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
コール歴5年
sky colors
第7話 遠い空の下で
眠れなかった。
どうしても眠れずに、ユッカは横になったまま、隣のオグのあどけない寝顔を少しだけ見ていた後、起き上がった。
寝巻きのまま外に出ると、薄青はしんと静かで、遠い空には小さな星がいくつもちらついている。
夜空は透明で、とてもキレイだ。
ユッカは思う。
この空が本当に世界のどこにも存在しているのなら、城へ行ったダイオスもこの空の下にいるのだろうか。
この、キレイな空の下に……
どうしました?
背中に掛けられた穏やかな声。
ユッカが振り向くと、レイテさんがいつもと変わらない姿でユッカに微笑みかけていた。
彼女は、ユッカやオグの感情の機微にいつでも敏感だ。
レイテさん……
眠れませんか?
夜は声がよく通る。
ユッカは、視線の先、遠く佇む中央の誰もいないはずのテントを見た。
レイテさんは母親のような存在で、傍にいてくれると安心する。
本当の母親というものがどういうものか、ユッカにはわからないが。
目をキラリと光らせて、そっと、呟く。
今日、族長が城へ行きました
知っています
大きな剣を持っていました
思い出す。ダイオスの後腰に下げられていた、見たこともないような大きな剣。
それは決して新しいものではなくて、使い込まれているものだった。
戦いに行ったのかな
呟く。身震いがして、思わず自分で自分を抱きしめた。
直感でしかないが、そんな気がする。
それは、とても怖いことだと思う。
さぁ、どうでしょう
レイテさんの声音は変わらなかった。
それはとてもやさしいもので、ユッカは泣きそうになった。
戦場で戦ったら、ダイオス死んじゃうよ
だってもう、おじいちゃんなんだよ?
普段からよくしてくれるダイオスの死を想像しただけで恐ろしいほどの不安がよぎる。
戦い、争いというものを話で聞いたことはあっても、目の当たりにしたことはない。
一度悪いほうへ考えると、どんどん悪いほうへ進んでいく。
剣というものは、血を流す道具だ。
大丈夫です
レイテさんが近寄ってきて、しっかりとした両手をユッカの肩に置いた。
すると、ユッカは驚くほど気持ちが静まっていくのを感じた。
レイテさんを見上げると、彼女はやさしく微笑んだ。
族長は死んだりなんかしません
ユッカは頷いた。
遠い、遠いどこかの空の下、多くの人が呼吸している。
空を見上げて、思う。
その空は、どこまで続いているんだろう。
それとも、空に終わりなどないのか。
ねぇ、アルト
呼びかけるリウトは、いつになく真剣な表情をした。
城へ来ないか?
――ラムダを探せ――
信用できる部下にそう命じ、クローブはひとつの情報を手に入れた。
エメラルドか……
それは、鉱山の町。
今はもう何も取れず、寂れてしまった街でもある。
そんな場所で、一体何を……
ラムダ。
フェシスの剣を持つ男。レダの右腕。
コールが王として就任してから、彼は引退し、その後の消息は不明。
ラムダさんなら……
自分は、一体何を期待しているんだろう。
だけど、変えて行かなければならない。国を。
コール王の今成している国は、自分があこがれ続けていたレダ王の国ではない。