――ディープスから遠く離れた国、リュエード。
――ディープスから遠く離れた国、リュエード。
おれ達の目的は、この国――10年程前に生まれた新王国・リュエードにある国宝を盗むことだ。
月に一度、国宝である宝剣は手入れするスケジュールがあるらしいのだが、今月はいつも担当している者が不在。その隙を狙い、すり替えを目論んでいる。
コル、今回ばっかりは失敗したら
まずそうだから最終確認するぞ。
なんだ?
この不愛想なオッサンがコル。おれの相棒だ。おれ達は特殊な事情でここの宝剣を必要としている。その計画についての最終確認だ。
部屋に入ったら、
王様から宝剣を渡される。
入念に手入れをする際、
あらかじめ用意した
この完璧なレプリカと
すり替える。
後は、
冷静に焦らず急ぎ逃げるだけ。
何か荒くないか?
余裕だ。
マジでやるの?
当たり前だ。
何の為に今迄準備してきたと
思っている。
すり替えなんて
ホント出来んのかな~。
やっぱやめない?
今更引き返せるか。
それにレプリカを
作った時点で充分重罪。
うっそ~、
そんなの聞いてないぞ。
うるさい、
もうここまで来たんだ。
あいつが代理の鍛冶屋だ。
いくぞ。
ひっでぇ……。なんでアイアンクローで気絶させるんだ。普通かっこ良く手刀で当身とかっしょ。超痛そう、ゴメンね、どこかの鍛冶屋さん。
とどめだ!!
流石、女王様。
おいおい女王、国宝振り回してるし、しかも大根切ってるし、あの大根ふとっ!
今夜はさぞかし
美味い大根料理だろうな。
いきなり予想外の出来事で顔が引きつる。つっこみどころが多すぎるっしょ。
おっ、もう来たか。
き、来た。意外に若いな。一流の剣の腕前をもち、失われた祖国を10年前の戦争で取り戻した女王。すげー怖い王様だって噂だったからびびったよ。
頼むぞ。
これが国宝剣・ジュヅヴァ。おれの作ったレプリカとはやっぱり迫力が違うな。
焦らなくてよいぞ、
落ち着いてな。
なんだ良い女王さんじゃないか。まぁ取り敢えず、テキパキ作業するか。
しっかし、流石に目を切ってくれないか……、 こんな時はコルにお任せだ。
チラ
って、この女王さん衛兵達とお喋りしてるよ!? 警戒心なさすぎっしょ。
いける、今のうちに一気にすり替えて……
誰だ? この片目の男は?
定刻より早いな。
なんだよ、チクショー。もうちょいですり替えれたのにぃ。タイミング悪すぎっしょ。
少し早かったでしょうか?
す、すみません。
次からはしっかり
時間を守って頂きたい。
なんだ、すげぇ堅物だぞこの男。
まぁ堅いことを言うな、
それでは女子にモテないぞ。
ぷ。女王さんに言われてやんの。
ギロリ
こ、怖ぇー、すげぇ視線だ。絶対、何人も殺してるよこの男。謀殺してるよ、謀殺。この男は油断ならないな。
やけに道具袋が大きいな。
何が入ってるんだ?
げ、やっぱり一番不自然なところを。でもレプリカは気付かれてないはず。
我々にはこれが普通です。
ぶ、無愛想な返事を……。しかも一緒に来てんのにずっと突っ立ったままって。やばいって、不自然っしょ。
…………
無言だよ、こうゆうのが一番怖いよ。やばいな、ちょっと怪しまれてるっしょ。
それにしても凄い剣だ。切れ味ならおれの打つ剣も負けなさそうだけど、なんか内在するエネルギーってのか、普通の剣の延長線上にないものを感じるな。
少しいつもより作業が遅いな。
うげ!? そうなのか? いつももっと早く終わるのか? 入念にチェックしてるとか、やんわり返事しよう。
我々の仕事は完璧だ。
黙って見ていろ。
おいおいおいおい、なんでそんな口の利き方するんだ、喧嘩しにきたんじゃないぞ。
ほぉ、大した自信だ。
楽しみだな。
顔笑ってるけど、絶対怒ってるよ、あんな言い方したら駄目っしょ。いざとなったらあの扉から逃げるっきゃない。
な、ななな、
なんで扉閉めさせるんすか?
点検中は閉めるのが
通例なのだ。
君らがどうこうという
わけではなくな。
それに不用心だと
変な気をおこしてしまう
切っ掛けになるかも
しれんのでな。
気を悪くしないでくれ。
そそそ、そーですか。
やばい、やばいぞ。これはやばい。ひょっとしたら何か怪しまれてるかもしれない。
おい、もういい、やれ。
へ?
面倒だから早くすり替えろ。
いや、無茶っしょ、
強引っしょ。
何をコソコソと喋っている。
うるさい、仕事の話だ。
素人は黙ってろ。
うえぇぇぇぇー!! なんでこーゆー作戦は大雑把なんだ!? 戦闘では緻密な作戦と計画を立てて軍神的な異名を持つ人なのに。テキトーすぎる。
それはすまない、
素人だからなにぶん
何も分からなくてな。
ふん、小僧が。
バカー!! この人この国のお偉いさんだよ、何で喧嘩売るんだよー。話ややこしくしないでくれぇ~。
どうやら国の重臣に対する
口の利き方を知らんらしいな。
終わったー、完璧にお怒りだよ!!
いや……、これはむしろチャンス! コルはこれを狙っていたのか? ――多分、強引な性格が素で出ているだけだろうけど、そうゆう作戦ということにしよう。何より注意深そうなこの男の目を盗むには今しかチャンスはない!
おれは黙々と作業を続けるふりしてやってやる!!
やった!! 余裕だ。作戦かどうかは分からないけど、コルがあの重臣を引き付けてくれたおかげで成功した。後は何食わぬ顔で帰るだけだ。
ほぉ、良い出来栄えだな。
うおっ!! い……、い、いつの間に背後に! 全く気付かなかったぞ。もしかして……、もしかして見られたか!? あの重臣に気を取られ過ぎて女王さんのことを気にしてなかった。
み、見られてたら一貫の終わりだ。