――ディープスから遠く離れた国、リュエード。

 おれ達の目的は、この国――10年程前に生まれた新王国・リュエードにある国宝を盗むことだ。



 月に一度、国宝である宝剣は手入れするスケジュールがあるらしいのだが、今月はいつも担当している者が不在。その隙を狙い、すり替えを目論んでいる。

ジエン

コル、今回ばっかりは失敗したら
まずそうだから最終確認するぞ。

コルティアース

なんだ?

 この不愛想なオッサンがコル。おれの相棒だ。おれ達は特殊な事情でここの宝剣を必要としている。その計画についての最終確認だ。

ジエン

部屋に入ったら、
王様から宝剣を渡される。
入念に手入れをする際、
あらかじめ用意した
この完璧なレプリカと
すり替える。
後は、
冷静に焦らず急ぎ逃げるだけ。
何か荒くないか?

コルティアース

余裕だ。

ジエン

マジでやるの?

コルティアース

当たり前だ。
何の為に今迄準備してきたと
思っている。

ジエン

すり替えなんて
ホント出来んのかな~。
やっぱやめない?

コルティアース

今更引き返せるか。
それにレプリカを
作った時点で充分重罪。

ジエン

うっそ~、
そんなの聞いてないぞ。

コルティアース

うるさい、
もうここまで来たんだ。
あいつが代理の鍛冶屋だ。
いくぞ。

 ひっでぇ……。なんでアイアンクローで気絶させるんだ。普通かっこ良く手刀で当身とかっしょ。超痛そう、ゴメンね、どこかの鍛冶屋さん。

女王

とどめだ!!

近衛兵

流石、女王様。

 おいおい女王、国宝振り回してるし、しかも大根切ってるし、あの大根ふとっ!

女王

今夜はさぞかし
美味い大根料理だろうな。

 いきなり予想外の出来事で顔が引きつる。つっこみどころが多すぎるっしょ。

女王

おっ、もう来たか。

 き、来た。意外に若いな。一流の剣の腕前をもち、失われた祖国を10年前の戦争で取り戻した女王。すげー怖い王様だって噂だったからびびったよ。

女王

頼むぞ。

 これが国宝剣・ジュヅヴァ。おれの作ったレプリカとはやっぱり迫力が違うな。

女王

焦らなくてよいぞ、
落ち着いてな。

 なんだ良い女王さんじゃないか。まぁ取り敢えず、テキパキ作業するか。




 しっかし、流石に目を切ってくれないか……、 こんな時はコルにお任せだ。

ジエン

チラ

 って、この女王さん衛兵達とお喋りしてるよ!? 警戒心なさすぎっしょ。

 いける、今のうちに一気にすり替えて……

 誰だ? この片目の男は?

重臣

定刻より早いな。

 なんだよ、チクショー。もうちょいですり替えれたのにぃ。タイミング悪すぎっしょ。

ジエン

少し早かったでしょうか?
す、すみません。

重臣

次からはしっかり
時間を守って頂きたい。

 なんだ、すげぇ堅物だぞこの男。

女王

まぁ堅いことを言うな、
それでは女子にモテないぞ。

 ぷ。女王さんに言われてやんの。

重臣

ギロリ

 こ、怖ぇー、すげぇ視線だ。絶対、何人も殺してるよこの男。謀殺してるよ、謀殺。この男は油断ならないな。

重臣

やけに道具袋が大きいな。
何が入ってるんだ?

 げ、やっぱり一番不自然なところを。でもレプリカは気付かれてないはず。

コルティアース

我々にはこれが普通です。

 ぶ、無愛想な返事を……。しかも一緒に来てんのにずっと突っ立ったままって。やばいって、不自然っしょ。

重臣

…………

 無言だよ、こうゆうのが一番怖いよ。やばいな、ちょっと怪しまれてるっしょ。



 それにしても凄い剣だ。切れ味ならおれの打つ剣も負けなさそうだけど、なんか内在するエネルギーってのか、普通の剣の延長線上にないものを感じるな。

重臣

少しいつもより作業が遅いな。

うげ!? そうなのか? いつももっと早く終わるのか? 入念にチェックしてるとか、やんわり返事しよう。

コルティアース

我々の仕事は完璧だ。
黙って見ていろ。

 おいおいおいおい、なんでそんな口の利き方するんだ、喧嘩しにきたんじゃないぞ。

重臣

ほぉ、大した自信だ。
楽しみだな。

 顔笑ってるけど、絶対怒ってるよ、あんな言い方したら駄目っしょ。いざとなったらあの扉から逃げるっきゃない。

ジエン

な、ななな、
なんで扉閉めさせるんすか?

重臣

点検中は閉めるのが
通例なのだ。
君らがどうこうという
わけではなくな。
それに不用心だと
変な気をおこしてしまう
切っ掛けになるかも
しれんのでな。
気を悪くしないでくれ。

ジエン

そそそ、そーですか。

 やばい、やばいぞ。これはやばい。ひょっとしたら何か怪しまれてるかもしれない。

コルティアース

おい、もういい、やれ。

ジエン

へ?

コルティアース

面倒だから早くすり替えろ。

ジエン

いや、無茶っしょ、
強引っしょ。

重臣

何をコソコソと喋っている。

コルティアース

うるさい、仕事の話だ。
素人は黙ってろ。

 うえぇぇぇぇー!! なんでこーゆー作戦は大雑把なんだ!? 戦闘では緻密な作戦と計画を立てて軍神的な異名を持つ人なのに。テキトーすぎる。

重臣

それはすまない、
素人だからなにぶん
何も分からなくてな。

コルティアース

ふん、小僧が。

 バカー!! この人この国のお偉いさんだよ、何で喧嘩売るんだよー。話ややこしくしないでくれぇ~。

重臣

どうやら国の重臣に対する
口の利き方を知らんらしいな。

 終わったー、完璧にお怒りだよ!!



 いや……、これはむしろチャンス! コルはこれを狙っていたのか? ――多分、強引な性格が素で出ているだけだろうけど、そうゆう作戦ということにしよう。何より注意深そうなこの男の目を盗むには今しかチャンスはない!

 おれは黙々と作業を続けるふりしてやってやる!!

 やった!! 余裕だ。作戦かどうかは分からないけど、コルがあの重臣を引き付けてくれたおかげで成功した。後は何食わぬ顔で帰るだけだ。

女王

ほぉ、良い出来栄えだな。

 うおっ!! い……、い、いつの間に背後に! 全く気付かなかったぞ。もしかして……、もしかして見られたか!? あの重臣に気を取られ過ぎて女王さんのことを気にしてなかった。





 み、見られてたら一貫の終わりだ。

pagetop