Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
コール歴5年
sky colors
第五話 想いの交錯
クローブが城へ戻ると、紫の華奢な女性が廊下を歩いているのに出くわした。
思わず口元に笑みを浮かべ、話しかける。
カノン様、おひとりで?
今から帰るんだ
お供いたしましょう
断る
クローブの差し出した手に見向きもせず、カノンは足早に去っていく。
残されたクローブは、今度は苦笑いを浮かべた。
変わらず、どこまでも続く透明な空。
気を緩めると吸い込まれてしまいそうで、だけど、吸い込まれてみたいとも思う。
見上げ、空気を吸い込むと、体の中から浄化されているような、すがすがしい気分になった。
ユッカちゃーん、虫―! 変な虫がいるー!
両手を挙げて叫びながら走ってくるオグの声に視線を下げた。
遠いところで遊んでいるかと思えば、彼はいつでもユッカの居場所を把握していて、何かあればすぐに駆けて来る。
しかしオグは何を持っているのだろう。
近寄るまで分からなかったが、オグは黒く足がいくつもあるような虫を捕まえいて、ユッカは顔をしかめた。
何それ。どっか放ってよ
ユッカは遊牧暮らしとはいえ、あまり見慣れない虫は好きでなかった。
だから、後ずさりながら言うと、オグはますます近づいてくる。
いじわるではなく、無邪気に、ユッカにも自分の楽しさを分けてあげたいのだ。
だって見つけたんだもん
見つけたからって何でもわたしに見せなくたっていいの!
ユッカが少し強く言うと、オグは泣き出した。
虫を放り、両手を目に当てている。
すると、ユッカもあわて出した。
あーあー、ほらごめんって
もう泣かないでよ、男の子なんだし
ユッカは身をかがめオグの背中をさすりながら、必死に宥めた。
オグの顔を覗き込んでいたユッカだったが、ふいに視線を少し上げると、なぜかクローブを思い出した。
そんな自分がイヤで、また思わず怒鳴ってしまう。
もう知らない!
そうやっていつまでも泣いていればいいでしょう!
立ち上がりオグに背を向けその場を離れ、少しだけ草の生えている荒地に仰向けに寝転がる。
視界に広がるのは空だ。
遮るものが何もないから、とてもきれい。
薄く流れる雲を目で追っていると、右横に気配がした。
そちらに目をやると、まだ泣き止んでいない、でも必死で泣くのを止めようとしているオグが、隣で同じように寝そべった。
感情に任せて怒鳴ってしまったことに、ユッカは罪悪感にかられた。
ユッカちゃんっていつも空見ているよね
うん
空、好きなの?
……分からない
目を閉じて心を落ち着けると、ユッカは謝った。
怒鳴ってごめん
ううん。ボクこそ、虫見せてごめん
いいよ
うん
目を閉じたまま、そのままふたりは眠ってしまった。
ユニがいなくなってから、城全体、そしてクローブの雰囲気が変わった。
リウトは仕事で城下町を訪れるたびに城へも寄り、必ずクローブにも会った。
ユニの消息を、クローブは調べてくれている。
だが、レダ王暗殺の噂を聞いたとき、リウトは今まで感じたことのないくらい嫌な予感がした。
ユニ……
それでも、働かないわけにもいかず、メール屋の仕事を続けている。