Wild Worldシリーズ

コール歴5年
sky colors

第三話 クローブの誘い

 

 

 

クローブ

久しぶりだね、オグ。ユッカも

オグ

もう、クローブ、来るの遅いよ

クローブ

ごめんごめん

 オグとクローブのやり取りを、ユッカは少し離れたところから見ていた。

 オグはとても嬉しそうに、クローブの周りをはしゃぎまわる。

 クローブも笑いながら、オグとじゃれていた。




 大人と子供がこんなふうに友達のように会話をするのが、ユッカには不思議に思えた。

 いつもウルブール族内の“大人の集まり”には、子供のユッカたちは呼ばれず、大人と子供の間には何となく線があると感じていた。

 その線をやすやすと跨いでしまうクローブは、おかしな大人だった。

オグ

ユッカちゃん! 今日クローブ泊まるって!

 オグがクローブの手を引っ張りユッカの傍まで来る。

 そのオグの真ん丸い瞳は、とてもキラキラと輝いていた。



 風がそよそよと吹いて、クローブのさらさらした髪を揺らしていた。

オグ

よかったね、今日ご馳走がでるね!

 オグは嬉しそうに目をキラキラと輝かせてはしゃぐ。

 ユッカは苦笑した後、微笑のクローブと目が合って、少し引きつった。



 ご馳走といっても、城仕えのクローブにとっては、普段の食よりも大分質素なものだろうと、たやすく想像できる。

 だけど、オグの喜んでいる姿を見ているとそうは言えず、ユッカも頷いた。

ユッカ

うん。よかったね

クローブ

今夜は世話になるな

 クローブの目を見ていると、ユッカは気持ちのとらえどころが分からなくなる。

 彼の目はどんな風にも捉えられた。

 自分の都合のいいようにも、その逆にも、どんな風にも。





 クローブが何を考えているのか分からない。





 ユッカはクローブが苦手だった。












 その夜は“ご馳走”が出た。

 ユッカの暮らすテントには、ユッカとオグ、それから世話をしてくれている女性のレイテさんと3人で生活している。



 基本的にこの一族は、女性と子供は男たちとは別の場所で寝泊りしていた。

 婚姻していては話は別だが、親を失った子や拾われた子は、こうして離れている。

 ユッカもオグも、孤児だ。

 ウルブール族には差別という言葉はなく、だからもちろんユッカは孤児というせいで疎外されていると感じたことはないし、ユッカを通して世界を見ているオグにとってもそれは同じことだった。

 無知で純粋な、そんな子供たちをクローブは気に入っていた。




 クローブがここで寝泊りすることを、族内でどう思われているのか、ユッカは少し気になっていた。


 ウルブール族内で食事を共にすることはあっても、泊まることは暗黙の禁止があった。

 クローブは外の人間だから見逃されているのだろうか。

 ユッカは何も知らないが、レイテさんがいいというなら、それでいいと思うことにしている。














  

 ウルブールの朝は早い。

 人は夜が明ける前におきだし、それぞれの仕事をこなし始める。




 ユッカが起きると、すでにクローブは起きていた。

 着替えも済ませている。





 隙を見せない人だ。



 自分はどんな表情をしたのだろう、ユッカはクローブと目が合って、なぜか動揺した。

 寝起きということもあって頭が回らない。




 クローブは穏やかに挨拶をしてくれたが、まだ少しぼんやりしていたユッカは生返事で返した。




 クローブは、少し考える間を置いてから切り出した。

 いつものように、穏やかな微笑。

 驚くほどあっさりと、どうってことないように。
 

クローブ

ねぇ、ユッカ
君、城に来て見ないか?

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