私は目玉……光を求めるモノ

………

……行き止まりか

目玉の迷子とは珍しいですね

誰だ!

ここですよ

壊れた携帯端末

「壊れた」は余計です

液晶画面が割れている

当然ですよ、ここに落ちるのは
壊れたモノばかりですから

壊れていないモノの方が
異常なのです

私は壊れてなど

………

目玉なんて生物に付属する部品のようなものではありませんか

貴方は【何者】かから落ちた部品なのです

お前は携帯端末なのか? 
それともその向こうに誰かがいるのか?

それを知ってどうなるのです?

そもそも、私とお前はどうして会話ができる

この場合、異常なのは私ではなく貴方ですよ

だって、目玉には口なんてありませんから

私はスピーカーを通して貴方に話しかけています。貴方の言葉は「言の葉」というデータに変換され、私の元に届くのです

難しいな

当然です。目玉の貴方は脳みそではありませんから

さて

目玉さんは前しか見ていない様子。少し上をご覧になってはどうでしょう?

上?

………

—————————糸———

上から糸が垂れ下がってます。これを掴めば上に昇れるかもしれません

……

私は、目玉。糸を掴むことなどできないさ

大丈夫です。あの糸は生きているので貴方を縛り付けてくれるでしょう

落ちないようにキツク縛りますよ

まてまてまてまてまて、私は目玉。そんなことをすれば潰れてしまう

ぐちょってするだろ

我儘ですね。これをお使いください

それは、
薄桃色の液体が入った小瓶だった。








蓋がひとりでにクルクルとまわる。

開かれた瓶の
円形の口が





こちらに向けられると。

スウゥゥゥゥゥゥ

ゥゥゥゥッッッ

激しい音を立てて
目玉を吸い込んだ。

………

薄桃色の液体の中、
目玉はプカプカと浮いている。

ダメですよ。身をゆだねては

貴方の意識まるごと、その液体に取り込まれてしまいますから

恐ろしい液体だな

イビーカと呼ばれる液体です

とある星の薄桃色をした神の力を宿しているそうです

あの……何でも吸い■■■■■■■

私にはミュート機能が備わっているのです。貴方の「言の葉」に危険なワードがあれば受信拒否します

危険だったのか

薄桃色の神について語ろうとしましたね?
ダメですよ。
神についてアレコレ詮索しては。

貴方が見たくないモノから目を反らすように、私は聞きたくないモノには耳を塞ぐのです

それでは、糸を縛りつけて

上に行きましょう

お前は行かないのか

私は先にお待ちしておりますよ

脳みそのない貴方が細かいことを考える必要はありません

そうだな

それにしても動きが鈍くないか

イビーカは重い液体ですから

重みに耐えきれずプツンとなるかもしれません

瓶が割れるかも……

この高さから落ちたら
………死んでしまうだろ

何を仰っているのですか? 

貴方は生きてなどいないのに

そうだった

ギギギ






鈍い音を撒き散らせて瓶は上へ上へ

そして、そのてっぺんに辿り着いた

ここが上

はい、ようこそ

お前は先程と同じやつか

はい

ここには地上があるのではなかったのか

ここはまるで……






 獄

貴方は地獄の更に下にいたのですから。地獄に這い上がっただけです

ああ、そうだった

地獄に這い上がったら思い出したよ

……お前は私の「口」と「耳」なのだろ?

はい、そうです。ついでに「脳みそ」も一緒ですよ。「手」や「足」、「胴体」に「頭」みなさん、色んな所にいました。
これで「私」の身体のパーツは全て揃いました

みんな、勝手に動き回るので集めるのに苦労しましたよ

私はなぜこのような姿に?

覚えていますよね?

名もなき暗殺者の私は

あの寒い小屋の中で

自らを刻んで
果てたのですよ

そして私の身体はバラバラになったまま、それぞれ奈落の底に堕ちました。
バラバラになった私たちは互いを探すため、あちらこちらを彷徨いました

そう……だったな

脳みそのない貴方たちは勝手自由に動き回るので集めるのに苦労しましたよ。地獄の底の更に下にまで行くことになるとは……

……それは悪かった

ところで、目玉の片割れは何処だ?

ずっと、そこにいるじゃないですか?

ピッタリと貴方の後ろに

………

後ろにいるのなら言ってくれ
私は後ろを見ることが出来ないのだから

ずっと喚いていましたよ。
今も喚いています。

私のミュート機能により、そちらの目玉の発言は全てシャットアウトされているだけです

……

何とも私らしい意地の悪さだな

私も大変なのですから許してください

ところで、
私の遺体はどうなったのだ

私は身体を刻みました。
その後、時限発火装置を使って、火の海にしました。落ちている欠片があっても、それが何かわからないでしょう

誰も私が死んだことは知らないのです。
知る必要もないのですから。
極力人付き合いを避けていたので、居なくなったことに誰も気が付きません

仕事柄、本当の私を知る者などいませんでした。だから、仕事仲間も本当の私が人間か、オークか、サルか、エルフか、男か女かさえも分かりません

ああ、そんな奴いたっけな……曖昧な記憶の中に存在するだけ。それが今の私。

……ああ

身体の一部も残さず、人々の記憶にも記録にも残らないようにした

「無」に至るまで

………

そろそろ一人芝居も飽きてきました

さぁ!

元の身体に
戻りましょう

そして

地獄の業火に
焼かれましょう

最初は目玉から外そう

私の目玉……これが私に光を与える限り私は罪を犯すから、だから

ごめん、私の目玉

アイアイ

~ I eye ~

第3回お題deストリエ

お題:不穏な行き止まり
キャラ:生物以外、人型除く

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