――中央通りから外れた路地。

ランディ

ハルキチは何がいいと思う?

ハル

何がいいっすかね。

ランディ

そうださっきの古物商。
やっぱ骨董品か。

 コフィンに余計な心労を与えてしまった。

 それにその心遣いが嬉しかったランディは、ハルとシャインに頼んで、お詫びの品を買いに行こうとしていた。

シャイン

適当に大ボラ吹いただけなのに
こうなったら
嘘突き通すしかないじゃん。

 コフィンが骨董品好きだと、ホラを吹いたシャインは嘘を突き通す気でいた。

ランディ

つっても骨董品なんざ
よくわからねぇしなぁ。
何が良いんだろうな?

シャイン

高い物買われてから
嘘がバレたら大変だから、
潰しの効く答えに……

ハル

何でもいいんじゃないっすか?
そういうのは気持ちっすよ。

シャイン

それナイス!
アホでマヌケなハルの分際で
ナイスな答え。ベストアンサー。
それなら安物に
誘導しやすいじゃん。

ランディ

だよな。

 そうこう言ってる間に、古物商に着くハル達。

 ランディは骨董品などには全く知識がなかった為、店員に適当な品を見繕ってもらっていた。

古物商店員

これなんかは如何でしょうか?

ランディ

なんだこれ?

古物商店員

古代の遺跡から
発見されたもので、
貴重且つ美しい装飾をもつ
壺でございます。

 店員が店内の棚から降ろしたものは、説明どおりの古い壺だった。

シャイン

で、値段は?

古物商店員

1,000ガロンと非常に
お求め安い値段と
なっております。

ハル

ほへぇ〜

シャイン

ちょっとした贈り物なのに、
こんなしょーもない壺を
しかも1,000ガロンで
売り付けるとか
ぼったくりでしょ。

古物商店員

お客様、
骨董品は有限の品であり
それなりの価値が
あるものなのです。
御理解くださいませ。

ランディ

なるほどな。
でも確かにしょーもない品だな。
師匠に渡すもんなんだから、
もちっとマシなもんねーか。

シャイン

うぇ!?
1,000ガロンで安物扱い!?
嘘でしょ?

 明らかに目の色が変わる店員。金持たぬ若者とたかを括っていたのだろう。動じぬ素振りを見せようとしても、随所に儲け話をものにしようとするオーラが滲み出ている。

古物商店員

御師匠に献上される品でしたか。
これは失礼致しました。
それならば中途半端な品は
かえって失礼でしょう。
こちらの古剣などは
どうでしょうか?
高貴な御方が使用していた
とされる逸品でございますよ。

ハル

おおーー!!
昔の剣っすか!?
すげーっす!
カッコイイっす!

シャイン

このバカ。
高貴な方とか逸品とか
根も葉もない言葉に
振り回されて喜ぶなんて。
それに幾らか聞いてないもん
絶賛するなんて、高かった時、
主導権握られて
断りにくくなるだけじゃん。

古物商店員

ありがとうございます。
この品は、
5,000ガロンでございます。

シャイン

一気に五倍のもん
ふっかけてきやがったわね、
なかなかやる。

ランディ

確かにクールな剣だけど、
俺、師匠の剣、
ぶった切っちまったのに、
使えねー剣渡すのも
どーだかっつー感じだな。

シャイン

上手い。
流れを引き戻す極上の一手。
褒めた後にすかさずダメ出し。
しかもバカのミスは
計算済じゃん。
動じぬ切り返しは
なかなか出来ることじゃないわ。

古物商店員

これは失礼しました、
そのようなご事情があるとは。
それではこの古代神の像など
如何でございましょう。
迷宮低層で発見された
歴史的にも
大変価値のあるものです。
しかも・・・・・・

ハル

ゴクリ

古物商店員

この品は日替わりセールの
対象商品なんです!!
通常5万ガロンのところ、
今日だけ4割引の3万ガロン。
この機を逃す手は
ないと思いますよ。

シャイン

歴史的価値のあるものを
日替わりセールに
するなんて、偽物って
言ってるようなもんじゃん。
それにそもそも
割引するつもりの値段設定……

ランディ

じゃあ、
それにすっか。

古物商店員

ありがとうございます。
それではお手続き……

ランディ

あー待て待て、
割引きなんていいから
そのまま定価にしてくれ。
贈り物に割引品なんて
気がわりーからよ。

シャイン

ん!?

古物商店員

え?

ハル

く、首がもげたっす。

古物商店員

あああ……

ランディ

しゃーねーな、
おい、
じゃあその横にあるやつくれ。

ハル

あれ?
シャインどこ行くんすか?

 たまらず古物商を飛び出すシャインは、珍しく取り乱していた。理解不能な価値観。バカと男前の化学反応。それが生み出す展開に、ソロバン一つで行動が決まるシャインは耐え切れなかったのだ。








 中央通りを駆け抜けるシャインの背中を眺め、ハルとランディは不思議そうに顔を見合わせた。

 ~兆章~     107、化学反応

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