Wild Worldシリーズ

レダ暦30年
水辺の音色

2

 

 

 

ラムダ

全員揃っているな

 早朝、ラムダは遠征隊を集め、号令をかける。

 列の最後尾で、ジャンは必死に前を向いていた。

 一番年下で、遠征初経験のジャンは緊張しっぱなしでいた。

 前夜から一睡もしていないし、水さえ飲んでいない。

 背負っている軽いはずの剣が、非常に重く感じた。

 ラムダが全員に何かを話しているが、上手く聞き取れない。



 馬に乗ると、異紡ぎの森とフェルケ砂漠を迂回して、国境近くの要塞、カテゴテに丸1日掛けて到着した。

 途中で何度も休憩したはずだが、ジャンは休んだ気がしていなかった

ジャン!

ふいに、誰かの声が聞こえたかと思えば、視界は暗転した。











   



  

 夢を見た。



 レダ城が炎に包まれている。



 だけど、王座にいるのはレダ王ではなく、やたら華美な衣裳を身に纏った男。



 片手にワイングラスを持ち、口元は余裕そうな笑みを浮かべている。



 ジャンは、その男の首を取った。



 振り向けば、クローブが妖しく笑っていた。








  

ラムダ

平気か?

瞼を開ければ、ラムダ隊長が自分を見下ろしていた。

ジャン

あ、俺っ!

 瞬時に状況を悟り、掛けられていた毛布を跳ね除け、横になっていた身体を慌てて起こす。

ジャン

何を倒れているんだ任務中に!

ジャンが跳ね起きると、ラムダが苦笑する。

ラムダ

寝ておけ
クローブから聞いていたが、お前、寝てないんだってな

ジャン

それは……

ジャン

余計なことを言いやがったなアイツ……

内心クローブに毒づく。

 しかもラムダは厳しいことで有名だ。

 思わず身体に力が入ると、ラムダはクローブの肩を押し、固いベッドに再び横にさせた。

ラムダ

緊張するのも分かる
単独行動は控えろ
いいな、絶対無理はするなよ

ラムダの無遠慮なやさしさに、ジャンは急に恥ずかしくなった。

 こんなに自分のことを考えてくれるなんて思っていなかった。

 だから、横になったまま片腕で目を覆った。

ジャン

情けないっす、俺

ラムダ

ん?

ジャン

こんなんで

 素直な気持ちを吐露すると、ラムダは笑った。

 ラムダの笑うところを初めて見た。

 腕を少しずらして、思わず盗み見てしまう。

 噂と、実際に見るのとでは、その人物の有体が結構変わってくる。

ラムダ

心配するな。みんなそんなもんだ

厳しい人。

だけどやさしい人。


ラムダ隊長を慕う兵の気持ちが初めて分かった。

ジャン

隊長……

ラムダ

ん?

ジャン

自分、隊長についていくっす

ラムダ

なんだ突然

ジャン

いや、なんでもないです

ラムダ

変な奴だな

ラムダはまた笑った。

ういーす
食事持ってきやしたー

兵の一人が、ジャンとラムダのふたり分の食事を運んできた。

あれ、ジャン気付いた?
たくさん食えよー
じゃ隊長、失礼しやす

ラムダ

あぁ、ご苦労

気安い人たちに安心して、ジャンはようやく笑った。







   

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