Wild Worldシリーズ

レダ暦6年
星に願いを

10

 

 

 

ラムダ

教えてくれ。お前の目的は何なんだ?

ある日、ラムダはアスターに詰め寄った。

 居合わせたセシルは、腕を組み壁際に佇んでいる。

ラムダ

フラウをどうしようとしてるんだ

アスター

それを知ってどうするの?

アスターは静かに聞き返した。

ラムダ

答えによっては、もう協力できない

 ラムダの答えは、アスターの想像通りだった。

 彼の正義感は、歪んだ感情や卑怯な真似など認めない。

 黒く塗りつぶされたような心を持つ自分の近くにいるラムダが、時々不思議でならなかった。


 誰かを特別視しない。


 そんなラムダを、アスターは信頼していたし、自分の企みを知れば正そうとするだろうくらいのことは予測していた。

 ただひたすら自分を受け入れて傍にいるセシルとは、信頼の意味が違う。




 ラムダは、哀れなアスターの味方でいた。

 無口で無表情で、あまり多くを語ろうとせず、生まれたときから運命を決められていて逆らおうとしない。陰湿で陰気で、不幸。

 ラムダの嫌いなもののほとんどを持つアスターが、不憫で仕方なかった。

 もし、アスターが普通の子として生まれていたのなら、少し違ったのだろうか。

 機会があれば、リバーストーンに連れて行きたかった。

 そんな遠くにまで行くのが無理でも、城から数日でも出してあげられる機械をうかがっていた。



 ずっとこんなところに閉じこもっているからいけないんだ。

 されど機会なんて訪れず、暗すぎる闇は、どんどん濃くなっていった。




 動くに動けず、どうにも出来ないうちに、知らない奴まで動き出した。

 そうなってはもう、黙っていられなかった。



 フラウやケルトの幸せを壊したくなんかない。

 彼らだって苦しんできたことをラムダは知っている。

ラムダ

アスター

 ラムダは、願うようにアスターを見つめた。

 アスターは、ラムダを睨んだ。












 赤ちゃんが、喚くように泣いている。

 だからアーチェと助産院のおばあちゃんが様子を見に行くと、そこは真っ赤な海と化していた。

 生ぬるい空気からは、幸せの色など全く感じなかった。

 何が起きたのか全く分からず、アーチェは立ちすくんだまま動けなかった。

アーチェ

お兄ちゃん……?
……フラウ……

ぼんやりとしながら、アーチェは泣き続けるアルトを抱きかかえた。

アーチェ

アルト……

これは、一体どういうことなのか。


 何が起こったのか理解することを、全身で拒絶していた。









  

ラムダ

フラウ!!

ラムダが突然やってきて、乱暴に上がりこんだ。

 部屋への入り口を塞ぐおばあちゃんはおろおろとするばかりで、ラムダにも気付かない。


 その両肩をラムダが支えると、おばあちゃんはハッとしたように振り向いた。

 ラムダはそのまま自然におばあちゃんを下がらせて、自分が中に入る。


 するとそこには、泣きじゃくる赤ちゃんを抱えて立ち尽くすアーチェと、アスターに密かに雇われた殺し屋にのど元を切られ絶命したフラウとケルトが倒れていた。

ラムダ

間に合わなかった……

ラムダは悔しそうに拳を握りしめた。













  

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