Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
レダ暦6年
星に願いを
11
気はすんだか?
セシルが、静かに問いかける。
暗い部屋から外を見たまま、アスターは何も答えない。
空は晴れ渡り、窓際のアスターにも同じように光は降り注ぐ。
暗いこの部屋が、更に暗く感じた。
アーチェ!
ラムダは、呆然と立ちすくむ彼女に強く声をかけた。
しかし、全く反応しない。
ラムダは、アーチェの肩を掴み、激しくゆすった。
アーチェっ!!
それでも、反応しない。
アーチェは、生まれたばかりのアルトを胸に抱き、そのぬくもりを感じながら、静かに涙を流していた。
何も変わらない
誰か一人死んだところで、自分は孤独なままだ。
アスターは、ゆっくりと窓際から離れると、飾り付けられた一人用のふかふかのイスに深く座った。
セシルが静かに近づき、気の抜けたような彼女を見下ろした。
こうなろうことは分かっていた。
だが、セシルは止めなかった。
自分はアスターの味方だし、フラウを庇う義理もない。
この愚かな女の好きにさせたかった。
アスターには、自分さえいればいい。
セシル……
か細い声。
アスターは、不安げな瞳でセシルを見上げた。
ここにいて
呟いて、そっと小さな手を伸ばす。
アスターはまるで子供だった。
城の中は閉鎖的で、自分を護ろうとする者と侵そうとする者と、敵も味方も分からず、成長と言う概念がない。
気持ちのありかを彷徨い続けたアスターは、ラムダの思惑通り外に出ることが出来たら、もしかしたら幸せに暮らせたのではないだろうか。
セシルは、アスターを優しく見つめた。
アスターがここまではっきり自分を求めてきたことがあっただろうか。
セシルはその手を取り、恭しく口付けた。
俺はアスターの傍にいた。彼女は孤独だったから
ラムダは、やりきれない表情で全てを語った。
時間をかけて、ゆっくりと。
アーチェは、黙って聞いていた。
だけどまさかここまでするなんて……
ラムダは悪くない
アーチェはそう慰めてくれるが、ラムダは自分を責め続けた。
そんなラムダの姿を、アーチェは見ていられなかった。
人の感情というものは、どうしてこうも厄介なのだろう。
それさえなければ、フラウもケルトも、死んでしまうことなんてなかったのに。
アーチェは、アスターを知らない。
ラムダの言うことが本当でも嘘でも、アスターを恨むつもりは毛頭なかった。
ただ、泣きつかれてアーチェの胸で眠るアルトを見つめながら、アーチェはこの子の未来を想った。