Wild Worldシリーズ

レダ暦8年
星に願いを

8

 

 

 

 フラウの出産予定日が近づいてくると、周りもそわそわとしだした。

 お世話になる助産院には、フラウのことはアーチェの姉とだけ言ってあった。

 この助産院のおばあさんはとてもやさしく温かくフラウたちを迎え入れてくれる人だった。



 ある日、ラムダがレダ王の手紙を持ちアーチェの家を訪ねると、彼らはちょうど助産院に向かうところで、玄関から出てくるところだった。

 フラウは少し動くのも辛そうで、ケルトが後ろから支えている。

アーチェ

あら

 ラムダに気付いたアーチェが、重そうな荷物を肩に掛けながら手を振った。

 ラムダは片手を挙げて答え、アーチェの傍まで来た。

ラムダ

出かけるのか?

アーチェ

うん。もう生まれそうで怖いから、助産院に行くの

ラムダ

そうか

 自然な動作でラムダはアーチェの荷物を持ち、代わりにレダ王の手紙を渡した。


 暗に、ラムダも着いていく構図が出来上がる。


 そしてラムダは、久しぶりに見る顔に思わず笑顔が浮かんだ。

 来るとは聞いていたが、実際に会うのは何年ぶりになるだろう。

ラムダ

ケルト

ケルト

ラムダ!? 久しぶりだね

ラムダ

変わんないな

 眼鏡の奥の穏やかな瞳。

 ラムダは安心すると同時に、嬉しくなった。



 ケルトも、ラムダの顔を見ると一瞬昔に戻ったかのような錯覚に陥った。

 だけど、同時にほんの少しの違和感を覚える。

 年月が経てば人は変わるだろうと自分を納得させて、真面目で少し固くなったラムダを、微笑むと同時にやんわりと受け入れた。

ケルト

もっと遊びに来てくれてもいいのに

ラムダ

忙しいんだよ

 そんな会話に、苦しそうながらもフラウは笑った。


 懐かしい。

 されど逃げ続けていた苦しい日々をぼんやりと思い返す。

 幸せな今があることを思えば、ケルトと出会え、ラムダやレダに助けられていた痛々しい日々も、決して無駄じゃないんだ。

 思い直すと、フラウは前を向いて歩き出した。




 フラウに合わせて、一向はゆっくりと進んで行った。

 アーチェが先を行き、ラムダは一番後ろから着いていった。

 大通りを避けるルートで、極力無理はしない。




 しばらく歩くと、前に一人、後ろに一人、自分たちをつけて来る者がいることにラムダは気がついた。

 そして内心舌打ちをする。

 アスターから何も聞いていない。




 アスターの最終的な目的を、ラムダは知らない。

 何となく、不安を感じた。














レダ

アスター

 王城の廊下。

 レダ王は通りがかりにたまたまアスターを見つけ、声をかけた。

レダ

久しぶりだね。最近はどう?
調子はいい?

 思えば、レダ王は日々雑務に追われ、会いにきてくれない限りアスターやセシルとは顔を合わせていないことに気が付いた。


 ラムダなんかは呼び寄せることもあるが、前王の娘を何の用もなしに呼び寄せることなどは出来ない。
 

アスター

王とお話するなど、恐れ多い

アスターはレダ王の思いがけない登場に少し驚いたが、淡々と応えた。

レダ

気を遣わなくてもいいのに

 レダ王は笑う。

 レダは王になってから気安くなった。

 アスターはそう思っている。

レダ

少し顔色が悪いよ、ちゃんと食べてる?

 しかし細かな気遣いはそのままだ。


 器の大きい人物。

 王にふさわしい人物。

 今は亡き父セアト王は、人を見る目は確かだった。



 自分の付き人に、セシルを選んだのも、間違いじゃない。


 何も答えないアスターに、レダ王は小さく息をついた。
 

レダ

今夜はバジルのスープがでるよ
俺が注文したんだ
それを飲んで、元気だしなよ

 アスターの肩にポンと手をやり、レダ王は雑務に戻った。

 その後姿を、アスターはずっと見ていた。











  




   

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