Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
レダ暦6年
星に願いを
6
人払いをした薄暗い部屋。
広いアスターの私室に、彼女と幼馴染の男が一人佇んでいた。
タイミングは?
出来るだけ早く
簡素な問に、即答が返ってくる。
気安く問う声は穏やかだ。
妊娠しているんだってよ
妊娠?
はじめて聞く単語に、アスターはセシルを見やった。
ラムダの兄さんが言ってた
どういうことなんだと目で問うアスターに、セシルは答える。
ラムダからセシルに渡った情報が、こんな形で耳に入るとは。
どうしてラムダは直接言わないんだと、アスターは窓の外、どこかにいるラムダを睨んだ。
どうする? 赤ん坊もやるか?
……
さらりと流れた残酷な台詞。
アスターにとって、フラウが妊娠しているとは想定外だった。
しかしフラウはもう30を過ぎている。
だからそうあってもおかしくはない年齢ではあるが、その可能性を全く考慮していなかった。
セシルは、辛抱強く彼女の言葉を待った。
新しい命に罪はない
了解
しばし間があってやっと出したアスターの答えの意味を理解して、セシルは内心ホッとしていた。
反面、少しの不安もよぎる。
それはかつてのセアト王とフラウの姿に似ているのではないだろうか。
フラウは赤ん坊の時に女の子だからと言うだけで殺されかねなかった。
それを、新しい命に罪はないと庇ったセアト王。
結局フラウは追われる身となり、最後にはセアト王は実の娘を手放すしかなかった。
セシルは、アスターと、生まれてくる新しい命を不憫に思った。
ずっと住んでいたミカエルの丘を離れるのは少し寂しい。
また戻ってくる場所ではあるが、妙に感慨が残る。
少ない荷物を足元に置いて、ケルトは5階建ての塔をしばらく眺めていた。
空は快晴で、風は気持ちいい。
行こうか
ゆっくりとショルダーを肩に掛け、静かに歩き出した。
フラウとアーチェ、それから、新しい命が自分を待っている。
大通りに出てみたいわ
ダメよ、危険だわ
せっかく城下まで下りてきたのに、残念ね
数日が経ち、フラウはアーチェの家に慣れだした。
不自由をしているわけではないが、暇を持て余し、時々そんなことを口にする。
動きたくても動けないフラウの辛さを察して、アーチェは提案した。
お兄ちゃんが来たら、少しだけ出かけて見ましょうか
その言葉に、フラウはとても嬉しそうな顔をした。