Wild Worldシリーズ

レダ暦6年
星に願いを

5

 

 

 

フラウ

じゃあ、行って来るわ

ケルト

立ち会えないのが残念だよ

アーチェ

あら、お兄ちゃんも来るんでしょ?

 ミカエルの丘。

 フラウは出産のため、一時的に極秘裏に城下町へ行くことになった。


 ミカエルの丘を出るなんて何年ぶりだろう。

 フラウは不安と期待でいっぱいだった。

 アーチェと一緒とはいえ、少しの間でもケルトと離れるのはかなり心細い。

 だからといって、ここまで助産婦を呼ぶわけにもいかなかった。


 お腹は、もう大分大きい。

 今のフラウは、この子のためだけを想っていた。

 アーチェはフラウの荷物を持ちながら、何となくフラウの不安を感じ取っていた。

 城下町までの道のりもかなりあるが、フラウのペースに合わせるつもりだ。無理はさせない。


 念のため、フラウには変装用の伊達眼鏡をしていた。

 本当はこれだけではまだ不安なのだが、フラウの存在を知るものが限られているのもあり、城にさえ近づかなければ平気かもしれない。

フラウ

じゃあ、向こうでね

ケルト

あぁ、僕もしばらくしたら追うよ

アーチェ

待っているからね!

 フラウとアーチェの背中を見送るケルトは、とても、とても幸せそうだった。

 ふたりの姿が見えなくなるまで、ずっとその場から動かなかった。











ラムダ

フラウ!

 アーチェの家に着くと、真っ先にラムダが駆けつけてきた。


 まるで計ったようなタイミングだが、アーチェもフラウも気にしなかった。

 元々、アーチェもラムダの仕事を詳しくは知らないのだ。

フラウ

久しぶりね、ラムダ

 穏やかな声。

 フラウの変化にラムダは一瞬たじろいだが、すぐに戻った。


 イスを引き、座るように彼女を促す。

 ラムダの紳士的な姿に、フラウは小さく笑った。

ラムダ

子供できたんだって? おめでとう

フラウ

ありがとう

ラムダ

どれくらいぶりになるかな

 向かいに座りながら、ラムダは言った。

 少しだけフラウのことも観察する。

 化粧気のない伊達眼鏡ごしの表情は穏やかで、少し不安を滲ませているのが分かった。

フラウ

そうね……16年かしら

ラムダ

そんなに経つんだな
ここにきて大丈夫なのか?

 思えば、自分ももう30歳を過ぎている。

 十分大人の年齢だし、人が変わるには十分な年月も経っている。



 しかし、フラウは事情が事情だ。

  出来るだけ守ってあげたい。

 だけど……

フラウ

えぇ。レダ王は知っているわよ
会いたいけれど、難しいかもしれないわね

 心底残念そうにフラウがもらした。



 レダは王になった。

 一般人のために出歩くわけには行かないし、一目会いたいだけでフラウの正体をばらすわけにもいかない。

 レダ王はどこへ行っても目立ってしまう。



 フラウの立場を考えるならば、会わないほうが懸命だろう。


 アーチェが紅茶を淹れてやってくる。

アーチェ

ラムダね、親衛隊長になったんだよ
すごいよね

 湯気の立つカップをそっと置きながら、アーチェがラムダの自慢をした。

ラムダ

おい、あまり変なこと言うなよ

 フラウは大事な時期なんだから、と諌める。

 が、本当は、ラムダは恥ずかしいだけなのだ。

アーチェ

あら、これくらいいいじゃない
今日は遠征ないの?

ラムダ

そうそうあってたまるもんじゃないよ

アーチェ

それもそうね

 アーチェがラムダの隣に座り、テーブルの中央に置いてあったクッキーに手を伸ばした。

 会話を聞いていたフラウがクスクスと笑う。

フラウ

あなたたち、随分と仲良くなったのね

アーチェ

そうかしら?

 特に何かしたつもりでもないアーチェとラムダは、同じタイミングで顔を見合わせた。









  


 

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