Wild Worldシリーズ

レダ暦21年
朧月夜

7.道化

 

 

 

 奇抜な格好で踊るピエロ。

 客寄せのため、通りがかる人々に簡単なボール手品を披露する。

 子供達を中心に、ピエロ――ガルザスとコールに群がりだす。


 道路に、スピーカーを中心に円状に糸が張られ、好奇心に満ちた子供達や、暇な大人達、話の種を集めている人たちなどが大勢集まりだした。



 その様子を見てガルザスは音楽を止め、一礼する。

 コールはそれにならった。



 それから、また違う音楽が流れ出す。

 派手に動き回るガルザスの後ろで、コールが色とりどりの風船を飛ばした。


 何もないところから、手のひら大の赤いボールが指先に現れると、観衆は沸いた。

 続きの動作でポンポンと手の中から赤いボールが現れる。

 手の中からあふれ出たボールは次々と転がり、コールが拾い集め、いくつかを観客に向かって投げた。

 落下点の近くにいた人たちは、我先にとボールに手を伸ばした。



 大なり小なりのパフォーマンスが繰り広げられ続ける。

 流れ続ける奇怪な音楽と共に、そこだけ別世界のような空気がただ漂っていた。




 王都の昼空。

 名もなき遊戯団。


 演目が終わると、コールはシルクハットを逆さまにし人々の間を回り、チップを入れてもらうたびに覚えたての簡単な手品を披露した。











  


  

ガルザス

どうだ?

コール

疲れたよ

 ガルザスの問に、コールは本当にぐったりして答えた。

 指を1本動かすのも辛いほど、疲れ果てていた。
 

ガルザス

まぁ、今日は休め
ホテルはもう取ってあるから、行こうぜ

 自由なガルザスに流されている。

 言いたいことは山ほどあったが、コールはそれどころではなかった。

 とにかく休みたかった。



 今までの疲れも一気に出てきたのかもしれない。

 ガルザスの後に、黙ってついていく。


 そうして辿り着いたところがどんな場所かも分からずに、ベッドに辿り着くと、すぐに深い眠りについた。













  

 

ガルザス

どうだ?

ミカド

疲れたよ

 どこかで聞いたような会話。

 しかし今回は声が低く抑えられている。

ガルザス

で? どうだったんだ?

 照明がほとんど落ちた室内で、片方の戯言を気にせず、片方は最初の質問に戻った。

ミカド

例の件については収穫なし

ガルザス

そうか……

ミカド

だが、こいつの探しているものの情報は手に入れた

 ミカドが、熟睡するコールを視線で指した。

 静かにコーヒーを飲む横顔は、どんな表情にも見て取れた。

 喜んでいるのか悲しんでいるのか愁いているのか怒っているのか、それとも嘆いているのか。

ミカド

単純に、抗体はまだ出来上がっていない
出来たとしても、実験が繰り返されるから完成まで大分時間がかかる
完成したとしても、先に王族に渡るし、次は城下町市民だろう
外の町にに渡るのはもっとずっと先だ
骨折り損だったな

ガルザス

まぁ、予想できた答えだな

 ガルザスの返答はそっけない。

 同じことを聞いたコールの返答は予測できる。

 だから、何も知らず眠り続けるコールを眺めながら、ミカドはフォローの言葉を考えていた。








  


   

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