Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
セアト暦21年
朧月夜
6.王都
男たちはミカドとガルザスと名乗った。
彼らは何の躊躇いもなくコールと共に王都行きの馬車に乗り込み、他に乗客のいない車内で簡単な自己紹介をした。
素性に触れない、本当に少しだけの自己紹介。
コールはふたりに連れられて、歩くより大分早く王都まで辿り着くと、都の想像を超えた大きさ、賑わいに、門の前で声も出せずに呆然と立ち尽くしていた。
この気持ちが感動なのか恐れなのか、よく分からなかった。
んで? どこに行けば抗体が手に入るって?
場に慣れた様子で伸びをしながら、ガルザスが辺りを見回した。
城下町の門はそれなりに頑丈だが、検問を設けているわけではないから、誰でも気軽に入れる。
たとえ、どんな野心を持った者だとしても、気軽に……
俺、調べてくる
コールをガルザスに任せ、ミカドは足早に人ごみの中へ消えていった。
お前、王都は初めてか?
キョロキョロとおのぼりさんになっているコールに、ガルザスは楽しそうに聞いた。
コールが黙って頷くと、ガルザスは悪戯を思いついた子供のように口元を歪ませた。
ミカドは真っ直ぐに歩いていた。
人ごみにまみれ気配を消し、大股で素早く歩くさまを誰にも見止められていない。
まさに空気と同等に存在している。
その狡猾さ、精錬された様は、明らかに裏で働く者の姿だった。
そのままごく自然に景色に溶け込むのと同時に、これまた同じように気配なく佇む建物に消えていった。
コールは大通りのど真ん中でキれた。
こんなことしている場合じゃないんだ!
まぁまぁ、抗体のことならミカドが情報持ってくるからさ
それが一番効率いいしな
そして俺らは、残った時間を有意義に使えばいいのさ
有意義って、これのどこが有意義なんだ!
ガルザスに渡されたピエロのような衣装を広げ、コールは抗議する。
街のど真ん中、大声でケンカする共通点のない二人に、通りすがりの人々は好奇の目を向けていた。
どこからかガルザスが仕入れてきた小道具や、この衣装。
それはとても奇抜で、絵空事のような。
それこそルカが持っていた本の中の知識でしかなかったことが、もしかしたら起こるのかもしれない。
いや、ガルザスの様子からすると、それを行うつもりなのだろう。
ムダな経験なんてないのよ
答えになっていない!
コールが憤慨する横で、ガルザスは余裕たっぷりに笑っている。
例の件はどうなった?
闇から声がした。
調査中だ
闇の空間へ向けて、淡々とミカドが応じる。
立っているのか座っているのかも分からない。
この場に一体何人がいて、誰がどこの位置にいるかも全く分からない。
それでも、この場にいる者達は知っていた。
お互いの役割分担や、存在価値に似た、それが。
別件で頼みたいことがあるんだが
それと全く違ったことをミカドが説明すると、闇は愉快そうにゆれた。