Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
コール歴21年
朧月夜
5.漆黒
目が覚めると、知らない場所にいた。
暗くて冷たい、倉庫のような場所。
ほとんど物はなく、生活感はまるでない。
狭くて天井も低い。
鉄錆のようなにおいに、微かに血のにおいも混ざっている。
コールが状況を理解する前に、たくましそうな男が寄ってきた。
身を起こしたコールの視線に合わせ、しゃがんでくる。
よぉ。気付いたかい?
よく通る声だった。
場のせいか反響する声に、思わずあたりを見渡す。
ここは……
かすれた声を出すと、一瞬頭が痛くなり、思わず両手で押さえた。
それから、寝起きで働かない頭を一生懸命回転させた。
自分は、どうしてこんな場所にいるのだろう。
ここは俺たちのアジトさ
お前さん、街道で倒れたんだって?
そこにいるマセた兄ちゃんが、お前さんを運んできたってわけさ
コールの思考を読んだかのように、男は口を開いた。
そして、驚くコールにニッと笑う。
人を安心させる愛嬌があった。
あ……
簡単に教えてもらった状況に、どう返事をするべきか、コールは迷っていた。
お礼を言うべきなのだろうか。
しかし、自分が倒れたことさえ覚えていない。
この男達を信用していいものだろうか。
どこに行くつもりだったんだ?
考え込んでいると、マセた兄ちゃんと呼ばれた、細身の長身の男が、少し離れたところに座り何かを飲みながら聞いてきた。
その瞳は一切の光を持っていない。
しかしそんな小さなことを気にしている余裕など、今のコールにはなかった。
今は、この男達を怒らせないこと。
それしか考え付かなかった。
王都へ行くつもりだった
王都? 何でまた
抗体が出来たかもしれないから、もらいに……
抗体?
エメラルドが病気になってしまって、このままじゃルカが……
ルカが…………
詳しく説明しようと思うが、頭の中がぐちゃぐちゃで上手くいえなかった。
ルカを想えば、泣きそうになる。
今もまだ苦しんでいるのだろうか。
苦い顔をするコールに、頭の回転が速いのだろうか大きな男は何か分かったように頷いた。
なるほど。しかし、歩いてか?
お金ないし、それしか思いつかなくて……
ふーむ……
コールが力なく呟くと、大きな男が動いた。
何となく、目で追う。
とりあえず、腹が減っているだろう
これ、食え
食べ物を見て、コールははじめて自分の空腹に気がついた。
慌てるくらいのスピードでパンにかぶりつく。
見ていた大男は豪快に笑い、長身の男は黙って水を持ってきた。
小さな暖かさに、コールは泣きそうになった。
今度ルカに会えたときに、この人たちの暖かさを話してあげたい。
王都か
長身が呟いた。大男が小さく反応する。
コールは気がつかなかった。
このふたりの表情が、ほんの少しだけ厳しくなったこと。
王都の方角、東の空。
小さな丸窓からは、雲で覆われた空しか見ることができなかった。