城の門兵

こちらは城主代理の
ムイリゥグ様です。

開け放たれたユベイル城に入ると、

門兵から丁寧な紹介を受けた。



中に広がる城の中央通りには

低姿勢で深々と頭を垂れた男が居る。

城主代理のムイリゥグだ。

ムイリゥグ

城主代理の
ムイリゥグと申します。
レジエレナ王女……
我が主ギリアムは、
貴方様に全面降伏致しました。
そして内密に話したいことが
あるそうです。
何卒城主の間までお越し下さい。

血色が悪そうで白い顔をしている

城主代理ムイリゥグは、

決して取り乱したりせず

手前の要求だけを

淡々とレジーナに伝えてきた。

レジーナ

うむ、承知した。

レジーナは何も聞かず承知して、

少しだけ時間をくれと伝え

ムイリゥグを退けた。

ギュダ

やはり怪しい。
全面降伏と言うならば
城主が出迎えて然るべきだ。

ガンツ

アズール城の時とは逆で、
俺達が
誘導されているってことか?

ギュダ

単純だが、被害を抑え
簡単に勝利する方法だな。

ガンツ

簡単にやられるつもりはないが
面倒なことになりそうだな。

ギュダ

カイン殿、貴殿は
どうお考えか?

七戦鬼カイン

私はこの件に関しては
口は出せない。
理由は聞いてくれるな。

ギュダ

降伏を願い出てその態度は
如何なものかと思うが……

レジーナ

そう苛めてやるな、
それでよいなカイン。

七戦鬼カイン

お心遣い
ありがとうございます。

レジーナ

ではギリアムの胸の内を
聞きに行くのは後にして、
少し城内を見て回るか。

ギュダ

姫、
優先すべきはギリアムの
意向を探ること。
城内を回るのは
それからでも遅くは……

レジーナ

ガンツ、
ユベイルの市場には
美味い物が沢山あるぞ。
新鮮な野菜サラダや
肉汁たっぷりの揚げ物、
それに特産の樽酒は、
芳醇な香りが口いっぱいに
広がりたまらんぞ。

ガンツ

それはいい。
兵士達の疲れも
癒されるでしょうね。

ギュダ

ちょ……

レジーナ

よし、そうと決まれば
市場に行くぞ。

七戦鬼カイン

わ、分からぬお人だ…………

城主ギリアムとの話を前に

市場を尋ねようとするレジーナ。



それを目の当たりにしたカインは、

目を丸くしてついていった。

市場はシンと静まり返っていた。



それは不思議でも何でもなく、

先程まで戦争をしていたので当然だ。



レジーナは

何ともつまらなそうに口を尖らせた。

ギュダ

姫、つい先刻まで
戦闘中だった城下です。
極上の樽酒は、
仕事が終わるまで諦めください。

レジーナ

仕方あるまい。
ならば早々にギリアムに
会うとするか。

レジーナが、

王城に足を向けかけたその時だった。

市民A

王女様!?
レジエレナ王女では
ありませんか?

レジーナ

!?

市民B

あー!
ホントだぁ。
レジーナお姉ちゃんだ。

市民C

まぁ、レジエレナ様。
ご無事でなによりです。

あっと言う間に

ユベイルの市民達がレジーナを慕い

集まってくる。



元々はイシュトベルトの直轄地だった

このユベイル城は、

レジエレナにとって

第二の故郷と言える場所だ。



城下に住まう市民達もしかり、

レジーナの奔放で気さくな人柄を

心から好んでいた。




ナバールの侵攻により

ナバール統治下に置かれていた

市民達の不安は、

計り知れないものだっただろう。



だが、追われる身と聞かされていた王女が、

自分達の目の前で

元気にしているのは嬉しい限りだった。

市民A

レジエレナ王女、
鶏肉の揚げ物、
好物でしたよね。
直ぐに作りますので、
召し上がってください。

市民B

レジーナお姉ちゃん、
それまでに前のお話の続き
聞かせて。

市民C

これこれ、
王女様はお疲れなんだよ。

市民D

レジエレナ王女、
まさか貴方様がこのユベイルを。

レジーナ

そうだ。
このままイシュトベルト全城を
取り戻すつもりだ。

市民D

素晴らしい志です。
王も喜ばれることでしょう。
ちなみにもうここの城主とは
お会いになされましたか。

レジーナ

今から向かうところだ。

市民D

くれぐれも注意なさって下さい。
薄気味悪く謀深き男と聞きます。

レジーナ

薄気味悪いか……。
余程その男は
油断ならぬ奴らしいな。
だが、百聞は一見に如かず。
直接我が目で
確かめるとしようか。

鶏肉の揚げ物を受け取り、

香ばしい香りと

パリパリの皮の食感を楽しむ。



そして次々と兵士達にも振舞われている。



レジーナは「安心しろ」と市民に答え、

「すぐに戻る」

と言い残して王城に向かった。

――ギリアムの待つ城主の間に続く階段。

レジーナ

ギュダよ。
どうやらギリアムとは
随分と酔狂な者のようだな。

ギュダ

と言いますと?

レジーナ

すぐに分かる。

七戦鬼カイン

…………

ガンツ

レジーナ姫、
貴女には俺達に見えない何かが
見えているのですか?

レジーナ

只の憶測にすぎんがな。

ギュダ

……

レジーナ

しかし、
何のつもりか知らんが
その酔狂が己の為にあるならば
切り捨てなければならん。

七戦鬼カイン

!!

レジーナ

カイン、君が
私を見極めようとするように
私もギリアムを
見極めなければならない。

七戦鬼カイン

私はギリアム様の事が
正直言って分からぬ。
だが、貴女なら……

レジーナ

見るべきところは肝の底だ。
表に出る言葉など些事にすぎん。
そしてそれを量るは
自身の胸の内がよく
知っていよう。

一段一段登る階段に

疲れを感じさせないレジーナ。



魂胆の分からぬギリアム。

ギリアムを少なからず知るアッシュは

レジーナの言葉に圧倒されていた。

レジーナ

ギリアムがどのような男か。
それは、我が道において
分水嶺となるであろう。

力強く階上に向くレジーナの足は、

道を切り拓くように

周りの者に写っていた。

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