ギュダの隻眼は戦場を改めて把握していた。
ガンツも首尾よく
やったようだな。
そのようです。
これで姫が突然の思い付きで
実行された、
四方から包囲する作戦は
成功ですね。
なんだやはり気付いていたのか。
ですが、
我々が死地に居ることは
変わりません。
ギュダの隻眼は戦場を改めて把握していた。
ギュダよ。
後からカインが
追いかけきているな。
はい、そのようです。
その理由がどうであれ、
ユベイル城の者からすれば、
腹心が寝返ったようにも
見えないか?
!
……姫の超少数本隊が、
数的不利を覆し
包囲を破るどころか
腹心を寝返らせたと。
通常の戦況では
見誤ぬであろうがな。
現在南から攻め入り敵軍を撃破したガンツ。
おそらくは敵は七戦鬼を投入しているはず。
それに東西の城の突然の出兵。
刻一刻と変化する戦場に置いて、
ユベイル城主の心境は
穏やかではないだろう。
姫、お見事です。
……ですが、
攻城戦における降伏勧告は
今からが
本番と言えるでしょう。
…………
愛馬・ナダレを走らせながら、
レジーナはギュダの顔をうかがう。
とても戦場と思えぬほど目を丸くさせ
不思議そうな面持ちで
ギュダの言葉を待った。
どうしたのですか?
包囲された者達が
思わぬ力を出すのは
戦場の常です。
まだまだ油断はなりません。
そうだな。
だが我らの思慮を越えて
事が運ぶのも戦場の常だ。
ギュダから移った視線の先、
レジーナの言葉の先には
ユベイル城があった。
ギュダはそのユベイル城に驚く。
四方から囲まれたユベイル城には
完全降伏を意味する
白旗が掲げられていたからだ。
二度目の勧告は不要だったか。
それにしても早い決断だな。
不審なほど早い決断です。
開城はするでしょうが、
鵜呑みになさらない方が
よろしいかと……。
何を辛気臭いことを
言っているのだ。
入城し兵達に
美味いものでも
食わしてやろうではないか。
ギュダは、
快活に笑うレジーナに注意喚起する。
相変わらずの小言だと
まともに取り合わないレジーナ。
ギュダがその上に小言を重ねるのは
いつもの風景だ。
そのいつもの風景に、
声を挟む者がいた。
おおカインよ。
本当に着いてきたのだな。
レジエレナ王女、
ギリアム様が降ると仰るなら
私も降りましょう。
うむ。
歓迎するぞ。
そして忠告です。
ギリアム様は三騎将の中でも
謀略に長けたお方。
この降伏を鵜呑みにす……
お前もギュダのような
小言が口を突くタイプか?
それでは女子(おなご)に
好かれんぞ。
またそのような事を……
き、気を付けます。
気をつけるのか?
ギリアムの腹の内は分からん。
だがそれ自体は楽しみの内の
一つでもあるのだ。
…………
今は胸を張り入城し、
ユベイルの民に
安息をもたらすのだ。
カインの懐に
レジーナの胸の内が
伝わった気がした。
主君であるギリアムの事が分からず、
敵であったレジーナの気持ちが
清々しいほどに感じられる。
レジーナを見極める――
そう口にしたカインの心は
大きく揺れ動いていた。