Wild Worldシリーズ

レダ暦21年
朧月夜

4.迷走

  

  

  

 徐々に回復する人が増え、少しずつではあるが、エメラルドは普段の活気を取り戻しつつあった。

 コールも、ほとんど全快といっていいほどにまで回復した。

 はりきってルカに会いに行くが、彼女はまだ全然回復できていなかった。




 おかしい。

 ルカが一番早く元気になっているのが普通なのに。


 それどころか、状態は一向によくならない。

 おかしいほどに、よくならないのだ。



 町医者も首をかしげ、尽力するが八方塞になってしまった。

 どんな薬を投与すればよいのか分からず、点滴で栄養剤を与えるのが精一杯だ。

 しかし、このままではルカの体力が参ってしまう。

 回復していた母親も、困り顔で溜息をついた。

 

困っているのよ。あの子、元々免疫も弱くて……
しっかりとした薬でもあればいいんだけど

コール

薬……

 コールは途方に暮れた。

 新しいウイルスにはまだ特効薬などない。

 皆、自力で回復しているのだ。



 自力で回復する力が、ルカにはないというのか……

 だったら、外から助けてあげるしかない。

 だけど、助け方が分からない。



 小さく風に吹かれながら、コールは唇をかみ締めた。

 自分に出来ることはないのだろうか。

 何か、どんな小さなことでも、ルカのためにできることは……



 しばらくして、コールは思いついたように顔を上げた。

 数日前、城から何度か派遣されてきた医学者が、回復者から血液を採取していたのを思い出したのだ。


 それは、抗体を作るためだと、誰かが言っていた。

 

コール

王都へ行けば……

 もしかしたら、もう抗体は出来たかも知れない。

 考え付けば、こんなところで突っ立っていられなかった。




 ルカのため。全てはルカのためなんだ。



 その為には、どんなことでもしよう。

 

コール君!?

ルカの母親が呼び止めるのも聞かず、コールは走り出した。











   

 王都までは遠かった。

 コールがとても一人で走っていける距離ではない。

 すぐに力尽き、しかし気持ちのまま全力で走ってきたので、すでに引き返せる距離でもなくなっていた。



 何も持っていない。

 風をしのぐ上着も、のどの渇きを潤す水も、何もない。

 ポケットの中の飴玉ももう全部舐めてしまった。



 気力だけで街道沿いを進んだ。

 時々馬車も通るが、乗れるだけのお小遣いも持ち合わせていない。

 それでも、前へ進むしかなかった。

 

 王都へ辿り着いたところで、もしかしたら抗体はまだ出来ていないかもしれない。


 そうだとしても、ルカの苦しみを思えば、何もしないよりはマシだった。

 自分の辛さなど、なんてことはない。

 進むしかない。

 進むしか……



 陽も傾き、歩きつかれて、コールはついに何もない砂地の上に倒れてしまった。






  

 そこに、たまたま通りかかった男がいた。

ミカド

……なんだこいつ

 街道の隅でうつぶせに倒れているコールに歩み寄り、そっと顔を覗き込んだ。

ミカド

生きてるか

 さぁどうしようか、というふうに、彼は小さく息をついた。







  

pagetop