Wild Worldシリーズ

レダ暦21年
朧月夜

3.調査

  

  

   瞬く間にルカと同じ病気がエメラルド全体に広がった。

 ルカの両親も倒れ、隔離され、コールはルカに会えなくなった。



 病原は、鉱山からの新種のウイルスらしい。


 抗体などもちろん存在しない。

 屈強な男達も次々と倒れ、身体の弱い子供達は当然のように次から次へと病に伏した。

 コールも例外ではなく、高熱でうなされることになった。





 町全体で病気になった。

 こんなことは、エメラルドの歴史上初めてのことだった。

 死人はまだ出ていない。

 しかし、いつ誰が死んだとしてもおかしくない状況だった。







 ある日、城から調査隊という人たちがやってきた。

 治りかけのコールはふらふらではあるが歩くことは出来、玄関の一歩外まで彼らを見にいった。

 5人ほどいた彼らは、頭からつま先まで全身しっかりと真っ白の防護服のようなものを身にまとっており、まるで汚れた空気の中嫌々派遣されてきたんだと言わんばかりの姿だった。

 そんな外部の大人たちの姿にコールは大きなショックを受けた。

 病魔に侵されていなければ、衝動的に殴っていたかもしれない。


 彼らは一軒一軒回り、玄関先で家人と話し、何かを書きとめていた。

 話すのも苦しいだろう人々に無理矢理知りうる限りの情報を吐かせていた。


 順番で、コールの家にも来た。

 コールは彼らを睨み付けた。

 防護服の中の彼らの表情は全く分からないが、動じていないように感じ取った。

君はこの家の子か
お父さんかお母さんはいるかな?

コール

今日は……寝てる

 うまく話せなかった。

 やつれた身体でしばらく外にいたせいか、ふらふらしてきた。


 ふと、思った。

 ルカの家にも寄ったのだろうか。

病気でかな?

 問われたことに、頷くのが精一杯だった。

 疑問を口にすることも出来ない。

 

そうか

 そう一言だけ放つと、彼らは少し相談し、すぐに次の家へ向かった。


 その後姿を見送ると、コールは無意識に部屋へ戻り、ベッドに倒れこむように気絶した。











   

被害状況は?

ほぼ全滅です

そうか……

 無機質な報告に、少しだけ悲しい声音。

 片方の声に表情が混じったことに、もう片方は露に驚いた。

 分かってはいるのだ。とくにこんな場所にいると。

 少しでも多くの人間を助けるために、無常なほどに切り捨てられてしまう人間もいることを。

 個人単位ではなく、国単位で働いていると、多くを助けることを優先しなければならない。

 国を、保つため。

あの……?

ん? まだ何かあるのか?

いえ……
この町は封鎖されてしまうのでしょうか

 指揮官の感情を汲み取ったのだろうか、それともただ沈黙に耐えかねたのか、兵士は言葉を発す。

……これだけの状況だと可能性は高いな

しかし……

 仕方のないこともある。

 だが、やりきれない。


 兵士の気持ちを察し、指揮官は気を利かせた。

お前の気持ちも分かる
だけど一番辛いのはレダ王だ
彼は、この町の出身だからな

え、それじゃあ……

苦渋の選択だよ
それでもレダ王は決定しなければならない
我らは、王に従うまでだ












    

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