コフィン

あなたの敗因は数え上げたら
きりがありません。
感情剥き出しにして
軽い挑発に冷静さを欠き、
対話もしようとせずに
好戦的に話を進め、
相手の実力も推し量らず
剣を抜く。挙句、
相手を舐めてかかり
初手で痛手を受け劣勢に。
自分には誰も知らぬ
戦闘手段があると
驕っていたのでしょう。
相手は自分よりも
長く探索をしている筈なのに、
その経験と力を考えもしない。
確かに優秀な戦闘手段に
違いありませんが、
使用者の力量が
貧相だったという事です。

 ランディでなくとも耳が痛くなる程の台詞。この場に居合わせた者達がコフィンの話を聞いている。

シャイン

全部アタシの
思ってた通りじゃん。

 口を挟むようにシャインがランディに言った。全員がシャインに耳を向ける。

シャイン

ねぇ~、だから
さっきやめときなさいって
言ったでしょ

 ランディとここに来る道中、忠告したと言っているシャインだが、そんな事実はない。

 ランディは思い出す素振りを少し見せたが、どうしても思い出せない。シャインはまだ戦いが進む事を、回避したいようだ。

リュウ

コフィン、
そろそろお得意の小芝居は
終わりそうか?

 シャインが話の流れを変えた時、リュウが見透かした様に質問すると、ランディはその言葉に目を見開き反応を見せた。

コフィン

なぜそう思いましたか?

 即座に問い返すコフィン。リュウも間を置かずに返答する。

リュウ

何年も正体不明の組織が、
タトゥーなんて目立つものを
入れる訳がない。
俺も最初は騙されたけど、
冷静になれば理に合わない。

 軽くリュウに一礼をするコフィン。そして肩にあるタトゥーを、持っていた布でこすると、タトゥーと思われた振り子の鎌がグニッと歪みをみせた。

コフィン

これしきの判断も出来ぬようでは
正体を隠し通している組織に
勝てる道理がありません。
それどころか、
一緒にいる仲間を危険に
巻き込むだけです。
以前のパーティと
袂を分けたのもうなずけますし、
今度もそうなる可能性が
高いと思ったので、
出しゃばらせて頂きました。

 コフィンはそう言って、アデルに目配せする。ランディの傷が気が気でなかったアデルは、直ぐに察して、ランディの元に駆け寄り手当を施した。

ダナン

俺ぁ、マジであんたらが
ペンデュラムだと思ったよ。

 ダナンがアリスとコフィンに目をやり、引きつった苦笑いを見せた。

アリス

実は私も驚いた。
5秒で嘘だと分かったが、
その間に
色々想像して楽しかったぞ。

 そう言うアリスは、遠巻きに見ていた場所から前に出てきた。

アリス

私達は長年迷宮に潜っているが
ペンデュラムとの接触はない。
そもそも存在すら
怪しいかもしれん。
お前がペンデュラムを探そうが
どうしようが勝手だが、
仲間の存在を
忘れるような行為はするな。

 ランディを見ずに語るアリスは、手当を施しているアデルの背中をポンと叩く。

アデル

ランディさん……。
私は何も出来ないかも
しれませんが、
力になれるよう努めます。
だから……、
だから一人だなんて
思わないで下さい。

 アリスの手に押されるように、自然に言葉が出てくるのを感じたアデル。

 コフィンがそれに大きく頷き、自分の言葉をランディに伝えた。

コフィン

先ほどの言葉は全て
偽りない私の気持ちです。
そもそも戦闘手段や装備は
使用者の経験がものを言います。
使用者の機知と機転を
最大限に活かす事が
最大の武器と知って下さい。
そして……、強くなって下さい。
仲間が護ってくれることを
知る事も大切ですし、
仲間を護れる力も大切です。

 コフィンは揺るぎない眼差しをランディに向けていた。

 その眼差しと言葉を受け、ランディはアデルやユフィ達に視線を移していく。皆、ランディを優しく見守っている。瞳を閉じ少し俯いた後、コフィンに視線を戻す。

ランディ

自分が未熟でした。
猛省致しますので
これからも御指導御鞭撻の程
宜しくお願い致します。

 深々と頭を下げたままのランディ。今まで粗野なイメージのランディだが、コフィンに対する所作は完璧と言えるもので、生来の美しさも相まって非の打ち所がない。

ランディ

これからは
師匠と呼ばせて頂きます!

 そのランディの勢いに押されるコフィンは、一歩後ずさりしてしまい、二歩目をギリギリのところで踏ん張った。

コフィン

あ、あの~、
私は、し、師匠とか、
え、え~と、
弟子とかはそのぉ……

 その姿を見ていた者達は、ドッと笑い声をあげる。

シャイン

師匠ーっ!
ご師匠様ぁ~♪

 と、シャインがふざけて言っている。緊張感から開放され騒ぎ出す周囲の声。ダナンが何か屁理屈を言った後、ダナンのスキンヘッドにビンタしているシャイン。そのあまりの手形の見事さに、ユフィやアリスが見惚れている。タラトが追撃を入れて、アデルは痛がるダナンを見て心配そうな言葉を出しているが顔は笑っている。故郷に咲くモミヅと呼ばれる葉に手形がそっくりだとロココが口に出すと、更に場は盛り上がった。

コフィン

……今日から皆、
あなたの仲間です。
勿論、私もですよ、ランディ。

 コフィンに手を差し伸べられたランディは、自らの弱さにもう一度向き合い、一気に飲み込んだ。

 そしてその手を自らの手と繋ぎ、この人間関係の巡り合わせに、心底感謝して屈託ない笑顔をコフィンに見せた。

 ~兆章~     105、敗因

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