シェルナ

これ以上はどんなつもりでも
やりすぎ、止めなきゃ。

 そうつぶやいたのはシェルナ。コフィンが本当にペンデュラムエリーのメンバーなら、ただランディを見殺しにしてしまう。それに、他意があったとしても、これ以上はやり過ぎだと考えていた。



 隣にいるアデルは、手を出してはいけない雰囲気の中で見守っていた。だがランディの傷が浅くない事を見て、手当をしようとランディに近付こうとする。

ランディ

来んじゃねーつーの。

 左拳を地に押し当て傷ついた脛で立ち上がるランディ。脛部からの出血が更に勢いを増している。激痛が押し寄せてるはずだが、気合いと根性でねじ伏せる。探し求めていたペンデュラムを前にして、弱気を見せるなどランディの辞書にはなかった。

コフィン

中途半端に踏みつぶされた虫は
足掻くものですからね。

 コフィンが構えないまま前進し、その姿を見下ろす様に微笑を浮かべる。



 大量の汗を流すランディは、肩を大きく上下させ息をしている。コフィンは構う事なく前進を止めない。お互いの剣の間合いにまでもうすぐという所まで近付いてきた。

ハル

やりすぎっす!
もうやめるっすよ!!

コフィン

ククク。
私の正体を知ったからには
自分達の身も心配した方が
よろしいのでは?

ダナン

すげぇな。
あのコフィンの剣撃を
受けるなんて……

フィンクス

いやそれどころか
そのコフィンの剣が
完全に折られてるぞ。

リュウ

コフィンほどの冒険者が
簡単に折れるなまくらを
持ってるわけがないよな。

アリス

コフィンの剣は
9階層の敵も
相手に出来る代物だ。

シャセツ

…………

ハル

一体どうやったら
そんな事が出来るっすか……

ロココ

あ、ああ……

ユフィ

ロココ、どうかしたの?

ロココ

魔気の反応です!

 ロココの言葉に、何処か違和感を覚えていた全員が認識する。この不快なものが沈殿したような感覚。――そう、迷宮に漂う魔気だ。

シャイン

何なのあれ!?

 ランディの長剣が真っ黒に染まっていた。

 迷宮の奥底の闇を抱えるような黒。吸い込まれそうな感覚に、ロココは尻もちをついてしまった。

ランディ

形勢逆転のようだな。
おい、てめぇ、
なんか言うことあるかよ。

コフィン

武器に魔気を……
初めて見る戦い方です。

ランディ

そんな分析は墓場でしな!
ペンデュラムのこと
吐きやがれっ!!

コフィン

何も言えません。

ランディ

ぶった切られなきゃ
分かんねえのかてめぇわよー。

コフィン

口を割るのは敗者の方です。
つまりあなたの方ですね。

 一瞬で間を詰めたコフィンは、ランディの左腕を叩き、武器を落とさせる。



 それから人差し指一本でランディを押すと、ランディは力なく後ろに倒れた。

 ~兆章~     104、新しい戦い方

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