女王陛下に、敬礼ーっ!!

葬式の空気というものは、何度立ち会っても慣れるものではない。


特に今回は、今まで仕えてきた方が亡くなったのだ。
内心では、整理がついていない。

葬儀、すべて滞りなく進んでおります

ご苦労様です。それでは、打ち合わせ通りに

御意

国中から多くの人が……それだけじゃない、同盟国であるディスナティの国王も参列されている。今この場にどれだけの人が集まっているんだろう

本当に夢を叶えたんだな……女王様

10年前

陛下、一体何故教会に向かわれるのです? 今日は安息日ではありませんよ

もうっ、いつもいつも私を無知な生娘みたいに扱って! 私だってそれなりに成長してるんだからね!

成長しておられるのは身長だけかと……失礼を致しました

まぁいいわ。あなたは私のお付きになって日も浅いし、慈悲深い女王陛下が許してあげましょう!

はいはい、ありがたき幸せ

それで、今日は何故教会に?

ん、ちょっと墓地にね

……墓地? 失礼ですが、王族の墓は宮廷内に用意されているのでは……

あそこ今でも怖いのよね……ってそうじゃなくて、これは個人的なことなのよ

その個人的なことに私めも同行してよろしいのですか?

構わないわ。ううん、あなたには知っておいてほしいの。これからずっと私の右腕として付き従ってくれるんでしょ? 今から行くところは、貴族のおじいちゃん達も知らないところだから

……はぁ

ほら、ここよ

これは……

……一体誰の墓なのです? 茨が伸びてきていますが、他の墓からも離れたところにありますし

ここはね、最も人望が無かった先々代の王様、私の叔父様の墓よ

はっ……!?

当然知ってると思うけど、以前の王族が若くして世継ぎを作らずに死んでしまったため、上級貴族の間で誰が次の王になるかを何ヶ月も揉めた。平民街の治安はどんどん悪くなり、誰でもいいから王権を以って混乱を収めないといけないといけなかった

そして、ある下級貴族の男が名乗り出て勝手に王を名乗り始めた。当然上級貴族たちは男の無礼を許せずに内乱を起こして男を討伐した。その討伐した貴族が男の首を掲げて王位を継承した……それが、陛下の父君ですよね

何度聞いてもいたたまれないわね……結果的に下級貴族だったお父さまが王になれたのは喜ばしいけど、だからといって身内を討ってまでならないといけないのかしら……

ですが、先代国王様のおかげで平民も安定した生活を送れているのです……ところで、あの先々代国王がこんなところに埋葬されているとは、陛下は何故ここに? 唾でも吐かれにいらしたのですか?

あなたね、私をなんだと思ってるの!! この男は言ってみれば内乱を起こした元凶よ! 確かに唾を吐かれても文句は言えないでしょうけど、だからといって死人にまで無礼を働くつもりはありません!!

私がここに来たのは……そう、夢を確認したかったの

夢……ですか?

……ねぇ、お父様の葬儀のこと、覚えてる?

ええ、勿論

沢山の国民が来てくれた。階級も職業も関係なく……私はそれが誇らしかったわ

同時に誰にも嘆かれることなく眠っている叔父様のことも思い出した。……遠い国の習慣でね、「お盆」ってお墓の前にお供え物をして供養するというものがあるそうなの。もしその習慣をなぞるなら……叔父様のお墓にはきっと誰もお供え物を置いたりしないわ。そんなの悲しすぎる

それは……故人の生前の行いで決まってくるものでは? 先代国王陛下は善い政治をして愛されたから葬儀にも多くの国民が参列した、男は違った……それだけではないのですか?

あなたの言うことも分かるわ。恐らく他の国民もそう思ってるはず。だけどね、それでも誰からも弔われずに眠り続けるのは辛すぎる。だから私はこの墓を見た時に決めたの

……まさか、ご自身の葬儀の時にこの男も一緒に執り行いたいと?

それができたら一番なんだろうけどね。けど、それをしたら国民が納得しないのもなんとなく分かるの。だから私、お父様よりも多くの人に悲しんでもらえる女王になりたいなって

先代よりも多くの人に……国の者を一人残らず呼ぶつもりですか?

国だけじゃないわ。多くの国とも友好関係を築いてお父様の時代よりも国を内外問わず栄えさせるの。国中だけじゃない、世界中の人に葬儀に参列してほしいの

なんというか……壮大すぎて子供じみてすら感じます

まーたそんなこと言う。それに、国を繁栄させるためにはあなたの力が不可欠なんだからね。これからしっかり働いてよね

勿論働きますよ……ゆくゆくは僕が実権を握るのが夢なんですから。ですが、他の者にも話しても良いのでは? 要は良き君主となって国を繁栄させたいということなのでしょう?

なんか今不遜な言葉が聞こえたわ……言えるわけないでしょう? 今元気いっぱいな女王が葬儀のことなんか話してたら不安になっちゃう

僕は現在進行形で不安なのですが……だいたい、夢とは言いますが、陛下が死んでから葬儀とは行われるのですよ? 陛下が死んでしまってたら葬儀のことなんか分からないではないのですか?

心配ないわ。あなたが死んでから私に教えてくれればいいんだから

…………!!

天国か地獄か……同じところに行けるように努力しますよ

えぇ、お願いね!

それで、ここまで付き従ってまいりましたよ……と

彼女は体が弱かったことを此方が忘れてしまうくらいとても精力的に働いた。
国民の失業率は著しく低下し、また多くの国と同盟や交流を深め、貿易大国として国は大きく繁栄した。

暗い仕事はすべて僕が行い、陛下には常に民に笑いかける慈悲深い女王でい続けた。



その努力の結果が、この参列者の数だ。
宮廷の庭には収まらない程の国民が押し掛け、さらに城内は友好国の王族貴族がほぼ占領してしまっている。

陛下……あなたはまさに偉人ですよ

友好国にも国民にも、葬儀の日程だけ知らせたものの、「ぜひ参加されたし」と強制は一切しなかった。

本当に私を想ってくれる人は強制しなくても来てくれるから」


陛下は生前そう仰っていた。

陛下は、本当に多くの人を虜にした。

さすがに世界中は叶わなかったが、ゆくゆくは彼女の存在が世に広まり、命日のたびに世界中の一人でも多くの人が彼女を想って黙とうしてくれたら……


そう切に願うばかりだ。

陛下のご子息はまだ14歳

即位しても、すぐに国の代表として政治を行うには若すぎる。

陛下はそこまで考えていたようだ。
ご子息が十分に大きくなるまで、僕が例外的に国の実権を得れるように計らってくれていた。

僕の欲まみれの夢すら叶えて逝ってしまうとは、つくづく頭が下がる。


いや、ほんとに尊敬している。
何年も右腕として支えてきたのだ。

しかし、欲を言うなら……

あなたと、もっと一緒に生きたかった



そう思うのは、わがままでしょうか

失礼いたします。葬儀の日程ほとんど終了いたしました。残るは……

あぁ、僕の出番ですね。分かりました

陛下の最後の望み


墓こそ作るものの、遺灰は風と共に撒いてほしい。

私は墓の中で眠りたくない、それなら国民とこれからも一緒に暮らしていきたい。


本当に、どこまでもぶれないお方だ。


さて、同じところへ行けるように、僕も頑張りますか

誰かがある日死んでも、次の日は変わらずやってくる。

それはいち国の王族であっても変わらない。


けれど、今日集まってくれた人々は、今日という日が来るたびに陛下を思い出してくれるのだろう。

それは、なんだかとても美しく感じた。

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