【2015年、春。柊なゆた】
【2015年、春。柊なゆた】
――桜壱貫くん、柊なゆたさん、そして柊モカさん。入学早々弛んではいませんか? そもそもです。高校とは各自が――
静まり返った教室に説教が延々と続いた。
担任の高藤先生は1時限目の授業に遅れた私達3人へ人生の通過点である高校生活、その重要性について訴えている。
悲しいけど、私達が悪い。
いっかが悪いでしゅ。ボク達を迎えに来ておいて自分が忘れ物をするなんて、絶対ありえないでしゅよ?
モカちゃんが高藤先生に聞こえないようにいっくんを責める。上目遣いで怒る姿が、……なんか可愛い。
すまん。
私とモカちゃんの間でいっくんが言葉少なに頭を下げる。
定刻に遅れる。人に向かって頭を下げる。
そう云ったことを滅多にしないいっくんの行動に、私自身驚いてはいるのだ。
『いや、待てよ?』
頭をひねる。逆転の発想だ! いっくんが遅れた本当の理由を考えてみた。
考察1。
『いっくんのお母さんが応援球団【ジャイアンズ】の勝利に、喜び川へ身を投げたから』
……無い無い。
考察2。
『いっくんのお父さんがジャイアンズに敗北した【スネオンズ】に呆れ果て、築3年の【スネオドーム】に向かって四股を踏み、すくい投げ。塩をまいたから』
……これも違う。
ちなみに私たち3人の位置関係は、高藤先生を前に左から、
3人!! 私語は慎みなさい。
は、はいっ!
私。
……すまない。
いっくん。
ごめんなさい、……でしゅ。
モカちゃんの順だ。
そんな先生の声だけが響く室内へ何かを叩きつける音が起こった。
あぁぁ、遅れた遅れたぁぁ♪
間の抜けた声が響く。声の主を見ようと首をひねるけど、いっくんの体が邪魔だった。
き、君は?
高藤先生が眉間を寄せいっくんの先に居るであろう姿に向かって声を投げる。
私? 現代に舞い降りた桃色の堕天使! 光を閉ざす漆黒、もといピンクの妖精、桃野恵(ももの めぐみ)、16歳よ!
いっくんの肩口から見えたのは、制服の前をはだけた茶髪、というか、金髪の女の子だ。
自称妖精である彼女は高藤先生の眼前に指を突きつけ、豊かに育った胸を突き出す。
クラスメイトのみんな、みんなが声を失っている。
転校生かい? ええと、ももの、ももの……。……あ、あったな。
高藤先生が名簿を確認している。後ろを見るとみんなが噂しあっていた。私も彼女をガン見する。
野暮なおじさんね? 分かったら、お茶でも用意しなさい!
――眉の筋肉がぴくりと震える。これはおもしろい展開が起こる! 私の感、『お笑いグランプリ』で学んだ知識が述べている。
それに、……そうね。私の転入祝いには華麗なる喜劇が是非とも必要だわ。
そこの偉そうなおじさんっ! 代表して靴でもお舐め!
恵ちゃんの発言に皆が言葉を無くした。しかし、
ぐっじょぶ! グッ、ジョブだよ!
私としては大歓迎なのだ! 予想を裏切らない展開に拍手で応えた。
高藤先生は、額を指で支えひとしきり唸った後、
……桃野くん、
腰に手を添えクラスのみんなを威嚇していた恵ちゃんに向かって、
何?
腕を水平に、廊下の方向に向けて突き出した。
……廊下に出ていなさい。
私はお腹を抱えた。そして今朝テレビで見た占いを思い出したんだ。
そう。今朝のふたご座のラッキーカラーは、――桃色だったのだよ。って。