古川愛李

キミの今日の昼食は何かな?
ちなみに私はコンビニおにぎりだ。

永井蓮

コンビニ弁当

古川愛李

コンビニ弁当は冷えたら美味しくないよ?
その点、おにぎりは優秀だよね。冷えていても美味しいんだもん。

永井蓮

なあ……

古川愛李

なんだい、非行少年?

永井蓮

俺とお前が直接話している姿を誰かに見られるのはマズイっていう理屈は分かった

けどな、昼食までわざわざLIMEしなくてもいいんじゃないか?
箸が進まない

古川愛李

だから私は片手で食べられるおにぎりを選んだんだ。
キミも今後は片手で食べられる軽食を携えるべきだね。

永井蓮

……ご忠告どうも

古川愛李

キミは今どこで昼食をとっているの?

永井蓮

屋上

古川愛李

あれ? 屋上は開放厳禁のはずだけど?

永井蓮

姉が天文部のOBだったんだよ
だから前に屋上の鍵をもらったんだ

古川愛李

なーるほどね。

永井蓮

なんだよ

古川愛李

そこはキミ専用のサボりの隠れ蓑兼喫煙所かな?

永井蓮

まあ、そうだな……

古川愛李

そしてそこでキミは今は亡き姉の思い出を反芻して、何度も何度も感傷に浸って、不幸に心地よさを求めようとしているんだね。

永井蓮

どういう事だよ……

古川愛李

あら、怒らせちゃった?
図星だったかな?

永井蓮

……なんで分かった? 
また……ニオイとかいうやつか?

古川愛李

『天文部の〝OBだった〟』
普通はあまりこんな表現はしないよ。

それに加えて屋上が立ち入り禁止になったのは数年前に一人の天文部員の女生徒が飛び降りたって噂を聞いたから。
それ以来天文部も無くなったらしいし……。

そしてもしその話が本当で……、
私がキミの立場なら同じ事をしてるだろうなって。

永井蓮

天文部の件はいずれバレるかもとは思ってたけど、
俺の屋上での感情まで言い当てるんだな……結局似た者同士の思考か……

古川愛李

私、結構無神経なこと言ったでしょ。
それでも感情をすぐに制御できるキミがやっぱり好き。
いや、そもそもお互い制御する程の感情なんてもうとっくに無くしたのかもね。

永井蓮

……かもな

古川愛李

感情はいつも平坦。

平坦。平坦。平坦。たまに希望。そしてまた平坦。

不幸を求めてしまう。

不謹慎といわれようと、私はそういう風に出来てしまったから。

いつから自分がそうなってしまったのかも、もう思い出せない。

慈愛はある。悲しみもある。喜びもある。

それでもなぜか不幸を求めてその快楽に身を沈めてしまいたいの。

自分が嫌い。他人が怖い。理不尽が嫌い。

精神的な一人が怖い。寂しいのは嫌い。

自分に酔ってでも、頭を真っ白にしたい。



――こんな私をキミはどう思う?

永井蓮

……鏡

古川愛李

……今度から私も屋上に連れて行ってよ。

永井蓮

……気が向いた時だけな

古川愛李

私もキミならそう答えるよ。

永井蓮

……後付だろ

古川愛李

分かっているくせに。

pagetop