純珈琲、要りませんか?
純珈琲、要りませんか?
ふー
あー、また学校サボって譲治くん買い食いしてる~
げー、しかもタバコまで吸ってるじゃん。
誰かに見つかって学校退学になったらどうすんの!?
え、学校行かなくて済むの?そりゃ上等だな!!
まあ、うだうだ言ってないで綾香さんも飲む?
『純珈琲 ポッカコーヒー(1972)』
この年は上野動物園でカンカンとランランが一般公開されたり、
沖縄が27年ぶりに日本返還されたりした中、世の中に缶コーヒーがシレっと出回り始めていたのでした。
なにこれ?
缶コーヒーっていうらしい。コーヒーを缶詰にするとか、変なこと考えるよな。
残り全部やるよ。
俺にはちょっと甘すぎるわこれ
ええ!あ…うん
うん、美味しいかも!!
お、おお。良かったな
ねえ譲治君…これ、ちゃんとお店から買ったヤツなの?
あはは!俺が金あるように見えっかよ?
まあ、店のババアが寝てるからその隙に…ツケってやつ?
それって万引きじゃな~い!?
んんん!?お前ら何やっとんじゃ~!!ふんが~!!
やべえ、お前が大声出すからババア起きちまったじゃねえか!
逃げるぞ!ダッシュ!!
え、ちょっと待ってよ!!
んだんだ!!待て待て~!!
待ってもいいけど、いま飲んでるの綾香さんだから。一緒に退学になる覚悟ある?
やだ、まさかこんなことになるなんて…
何か『俺たちに明日は無い』みたいだな!
私はまだ銃で滅茶苦茶に撃ち殺されるのはごめんですけど、しかも巻き込み事故!!
じゃあ、決まりだな
ゲッタウェイ!!
待て待て~!!
ええい、もうどうにでもなれ~!!
おお、ラッキー!ちょうどバスが来たぜ!飛び乗れ!
ん?いいけど譲治くんお金持ってないんじゃ…
う、うう!!
待て待て待て~!!
って、んな悠長なこと言ってる場合かよ!!
わあ!
ふー、間に合った~
これってどこ行きの便だっけ?どこまで行くつもり?
さあな。どこだって良いよ。どうせ金ないし。
おお、まだコーヒー残ってるじゃん。喉乾いたから一口だけ返してもらうよ
ちょっと…私にも一口ちょうだい?
え、ああ。
で、これからどうするのよ?
だな。どうすっかなあ…
この状況でタバコ吸うな!この不良!
あ、そっか。わりぃ
喚起は大事だよな
すげえ、缶コーヒーとタバコってよく合うぜ!これは流行るよ絶対。
そういう事じゃなーい!!
もう呆れたよ。
綾子さん、この後予定ある?
別にないけど、何よ?
じゃあ、このまま終点まで色々語り合わない?
いや、違うな。そうじゃない。
ずっと綾香さんに言いたい事があったんだ。
…うん、わかった!
あの日からもう半世紀が経とうとしている。
もしあのバスとコーヒーと彼女が混ざり合ったあの時あの瞬間に、
今の私が還れるとしたら何を変えたいと願うのだろう。
いや、未来の私から何を伝えるべきなのだろうか。
この恋の結末か?
あなたと私の今をちょっぴり良くするような知恵を与えるだろうか?
いや、違うな。
私は確認したいのだ。
うーん、私はちゃんと日寄らずに好きだと告白できていたのだろうか?
あの日から何度かの恋も経て、
大人になり随分経つ。
駄菓子屋は今じゃコインパーキングになってしまった。
バスは廃線になって記念碑となり、
若い恋人たちの待ち合わせ場所となっている。
私はすっかり髪も真っ白になったし、
タバコも辞めた。
もし君もまだどこかの町に生きて暮らしているのなら、
どんな日々を送ってきたのかお茶しながら語り合いたいものだよ。
このほの甘くて暖かな缶コーヒーをとっておきのティーカップにこっそり移し替えながらね。
いつかきっと
『ひとりぼっちのジョージ』
終わり
(お題DEストリエ第二弾参加作品)
なるほど、それは考えて無かったですね。
短編読み切りじゃなければ、バアさんがバスをハイジャックして取り立てに来る話とかも面白そうでした(笑)