翌朝、冒険者の酒場――。
翌朝、冒険者の酒場――。
昨日の晩に、取り敢えず
募集板を出しておいたわ。
朝食を摂る面々に、ユフィは静かに伝えた。
募集板とは、冒険者間や依頼人との連絡ツールであり、頼み事やアイテム交渉、それにパーティのメンバー募集などに使用される。
すぐに見つかると
いいですね。
アデルちゃん、
大丈夫だって。
こんなに人が居んだぜ。
あっという間に見つかるって。
アタシは難しいと思うけど。
ネガティブに考えんなって。
確かにネガティブに
考えたら駄目だけど、
シャインの言う事も一理あるわ。
そもそもここに居る人は
パーティに入ってる人が殆ど。
偶然にも探している人が居ても
私達の求めている条件に
合うのは稀なはずよ。
それに来る人間全てが
まともな奴と
言い切れないからな。
まぁまぁ果報は寝て待てだって。
シェルナのおかげで、
こうやってメシ食えてんだし。
少し重くなった場の空気を変えようと、フィンクスが白い歯を見せる。
皆が話す募集の話は、ジュピターの代役のこと。比較的条件は軽めだが、シャインの言うように簡単に見つからない可能性がある。
そしてフィンクスの言うシェルナの話。そう、昨日の朝、ハルが借金を作ってからの話だ。借金の期日の夕方までに、ガロンをカジノで増やそうとして大敗。メシも食えぬ状態だったはずだ。
確かに。
シェルナ様様だわ。
いやぁ、
奇跡だったっすよ。
あーゆーのが奇跡って
言うんすね。
ミラクルっす。
ありがと……グスタフ。
でも大丈夫♪
私はシェルナ=ガブリエル。
どこにでも居る一介の冒険者よ。
レイマールからの
特別な援助とは無縁なの。
かしこまりましたレナさ……
いや……、シェルナ様。
ね♡
冒険者って格好いいでしょ♪
まったくです。
へぁあっ!?
?
どしたのハル?
あああああ
あああああ
ああああっ
!!!!
ハルの雄叫びは、夕焼けに変わりつつある大空に突き抜けていった。
その原因はグスタフの胸元だった。燦然と光り輝くブローチ。それはハルが弁償しなければならないブローチと瓜二つだったのだ。
ブローチ?
このブローチが何か?
これはこの世に
10個しか生産されていない
逸品ですが。
そそそそそそそそ
それっす!!
それっすよぉっ!!
あーーー!!
これ!?
これがあの
借金の原因と
同じブローチ?
た、多分そうっす。
グスタフ!!
はいシェルナ様。
そのブローチ頂戴w
「特別な援助は不要」と、カッコよくキメた数舜後、掌を容易く返すシェルナ。そのシェルナに力の抜けるグスタフは、胸元のブローチを外すしかなかった。
しかも当面の資金まで
頂けたんですよね。
それは調度良く
ハルとタラトの腹の虫が
騒いでくれたおかげだな。
ファインプレ―だぜ、
ハル、タラト。
めしくえる
うれしい。
『ぐぎょばぼ
ぼぎゅぐんばおぉ~』
って、凄い音が鳴ったんすよ。
それは
空腹レベル2の音ですね。
その音でレベル2なの。
それ以上ってどんな音が……
やれやれ……
だが後は、
肝心のメンバーだけ。
俺は一人少なくても
全く構わんがな。
シャセツが強がりとも聞こえる本気の台詞を零す。昨日あのあと、グスタフに再戦を申込んだシャセツ。だが公務があると断られ、憤りを抱えているようにも見える。
ぼうず共、
今日も元気そうじゃないか。
おはようございます、皆さん。
そこへ、アリスとコフィンがいつになく早く顔を出した。
おっ!?
コフィン兄さんと
アリス姐さん、
おはよーっす!
今日はアリスの朝カジノが
断然調子良く、
早く来れました。
もしかして大勝ち!?
幾ら勝ったの?
スッカラカンだ。
何か降りてきたと思ったから
朝一の全額一点賭けだな。
どうせゼロになるなら、
早い方が良いという事です。
調子良いというのは
時間効率の話です。
苦笑いするメンバーと、同じテーブルにつくコフィンとアリス。そして自然にメンバー探しの話になっていく。
確かに条件を軽くしても、
そう良いメンバーは
見付かりませんね。
なーに、
すぐに見つかるだろ。
またいい加減なことを……。
大丈夫だ。
何か降りてきてる私が
言うから間違いない。
そうだといいんですが。
おはようさ~ん、
エブリバ~デ~♪
どうやら出勤してきたばかりのミリーナのようだ。なんだか得意気な雰囲気を感じる。
新メンバー申込あったわよん♪
突然の報告に全員の視線がアリスに集まり、そしてミリーナに移った。どうやら昨日解散した深夜に、ミリーナ宛に問い合わせがあったようだ。
昨日まで違うパーティにいた男で、日銭暮らしのパーティメンバーに腹を立てて、全員相手に大喧嘩し、パーティを抜けたらしい。
ミリーナ曰く、『粗野な奴よ』だそうだ。
どうやらもうすぐここに現れるらしいが、酒場で冒険者五人と大喧嘩する粗野な奴――。アデルとロココが心配そうに身を縮こませ、リュウとユフィが顔を合わせている。
ムン、ムン。
話の意味が分かっているのか、タラトがいつでも喧嘩出来るように首と肩を回し出す。
するとミリーナが手を大きく振り出す。その粗野な奴が視界内に居るようだ。大勢冒険者がいるこの酒場に全員が目を這わせる。
「ランディ=ウッズだ。よろしくな」
端的に自己紹介をしたのは、想像とは真逆の美しい青年だった。
今回は記念すべき本編100話目です。
これも皆様からの日頃の応援の賜物です。
ありがとうございます。
そして今回のおまけイラストは線画のみ。
その理由はぜひ皆様にハル達に色を塗って頂こうと思ったからです。
題して、
【100話目だし読者様に色塗りしてもらおう企画】