【2034年? 導きの園。柊真衣】

 私達は4人で『導きの園』へたどり着いた。

『コージさん』と、何故か持っていた『楽々さん』のパスで私達はその奥へ通された。

 私達は『導きの園』で1つの命を創りあげた。創らなければいけない命だった。

 お姉ちゃんはその子に『なゆた』と名付けた。

『導きの園』へ辿り着いた時にはお姉ちゃんの病はかなり進行していた。お姉ちゃんは体に幾つもの斑点を抱え苦しんでいた。

 園のリーダーである『ルーク・バンデットさん』はお姉ちゃんを生かす為にその顔へ仮面を被せた。お姉ちゃんが生き続ける為には仮面を付けることが不可欠だった。

 お姉ちゃんは荒い息遣いで私へ1つの願いを託した。

タタミ

……真衣。お姉ちゃんの一生のお願い。聞いてもらえないかな?



 お姉ちゃんは苦しそうに、でも笑顔でその子を私へ預けた。

タタミ

お姉ちゃんの子を、貴女の子として育ててほしいの。



 その表情はツラくとも真直ぐなものだった。涙交じりに、でも優しい眼差しだった。

タタミ

もっと、幸せな、自由のある時代で。


真衣

お姉ちゃんは? お姉ちゃんは一緒に来ないの?



 お姉ちゃんは頷く。

タタミ

お姉ちゃんは、



 そして、あの蒼い大きな空を示した。

タタミ

誰かの為に、



 深呼吸。手を大きく広げ、

タタミ

どんな時でも、



 自身の小さな胸を強く叩いて、

タタミ

どんな事からも守れる人に、成ろうと思う。



 お姉ちゃんが『先生』と同じように笑顔で向き合う。苦しそうに、それでも私を見る目は優しいものだった。

【新2000年、イバラキ。柊真衣】

 私と『なゆた』は園の技術『タイムウォーク』によって過去へ渡った。

 そしてルークさんから教えられた伝手(つて)を当たったの。

 ――桜の木の生えた家。西暦2000年の日本、茨城、ヒタチナカの『桜一心(さくら いっしん)』を頼るといい――。

 言われ、やって来た家で私は『一心(いっしん)さん』に抱きかかえられた。大きな腕、笑顔のシワがステキなおじさんだった。

 その年、私は8歳で一心さんの息子『桜大河(さくら たいが)』と共に大学へ通うことになる。近年認められた飛び級制度によってそれは叶えられた。大河(たいが)は学生結婚の末、妻の奏楽(そら)ちゃんとの間に子をもうけていた。

 一心さんと大河、奏楽(そら)ちゃんに支えられて、私と『なゆた』は育った。『なゆた』の傍には奏楽ちゃんの息子『壱貫(いっかん)』も居る。

 しかし、一心さん達にばかり頼っていられない。自立の為、私は新聞配達の仕事を始めることにした。

 自分の半分以上の大きさの『なゆた』をお腹に巻いて『ヒタチナカ』の街を歩く。歩き、止まり、また歩き仕事をこなした。

 仕事仲間のお兄さん、お姉ちゃんの皆が私に良くしてくれた。職務中は同僚の皆と別れ、一人前に仕事をこなした。

真衣

……!

『なゆた』は重くなんて無かった。彼女が居たから頑張れた。胸を張って生きていられる。

 だから私は歩き続けた。

【新2015年、イバラキ。柊真衣】

 ――あれから15年が経った。

『なゆた』は3日後に高校生となる。新聞配達から帰った私は、上の階に居る彼女に聞いてみた。

 開きかけた一冊の本に栞を挟んで問うたんだ。

真衣

あのね、なゆちゃん。なゆちゃん達は『化け物』って言葉を聞いて、やっぱり怖く思ったりするのかなぁ?



 眼をこすりながら『なゆた』が拙い歩みで降りてくる。猫ちゃん寝間着の彼女は逆に私へ問いかけた。

なゆた

うにゅ~。その『化け物さん』は怖いの?


真衣

ううん! みんな、みんな優しくて良い『ヒト』ばかりだったよ!


なゆた

……なら、



 大きく背伸び。『なゆた』はあの人の面影を残す笑みで話してくれた。

なゆた

私は、きっとその化け物さんが好きだよ! ほら、昨日読ませてもらった『独りの戦士』で『ジョーカー様』も言ってたじゃない!
『生は罪で無い。その行動に善と悪が在る』って! きっとそゆことだよ!



 それが、

『お姉ちゃん』と『先生』の子が出した答えだったの。

 鼻歌交じりに食事を用意する。真衣(まい)特製の目玉焼きをケチャップの赤で彩る。

 それをパンに挟み咥える『なゆた』を門の外まで見送った。

『なゆた』が大河の息子さん『桜壱貫(さくら いっかん)』に叱られながら駆けていく。この空には徐々に陽が昇り始めていた。

――お~い! ツクル! ミレイ、ナクル! 置いてくぞ~!


ま、待ってよ~!

待ってよー!

……。



 子供たちが私の隣りを駆けていく。その言葉に息を詰まらせ振り返った。

 子供たちは速かった。あっという間に雑踏に紛れその姿を追う事が出来なくなった。

 空には赤い鳥が舞っている。数年前から大河(たいが)の家の桜に巣を作っていた子だ。雛の為に餌を求めて飛んでいた。

オーイ、オイテクゾー!



 赤い鳥が子供達をマネして飛んでいく。

 何処までも、高く、遠くへ飛んでいった。蒼い空を風切り去っていく。

真衣

……置いてくぞ~、か。よぉ~し、私も負けてられないよぉ~!



 私は『立派に』忘れ物を残していった『なゆた』を追いかけ走る。

 ……とてとて、と。

真衣

待ってよ~! なゆちゃ~~ん!

 ――今度こそ置いて行かれないように!

 いつの日かみんなの元へ辿りつけるように、何処までも青空の下を駆け続けた。

【化け物クリエイターズ・完】

『犬っ子モカと、ナユタの日々』へ【続く】

【最終話】そして……、

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