【2034年、イバラキ。楽々】

楽々

楽々ちゃん! すっごいおもしろいゲーム拾ってきたよん♪


 みれいのPCから印刷した記事を皆の所へ持っていく。みれいとコージがこの腕の中を覗き込んだ。

タタミ

……あ~、それ、うちが開発したゲーム。


 私が発見したゲームを事も無く自分の家のゲームと言い放ったのは、よたよたと藁の枕を抱えてやってきたタタミ。その半開きの眼に、ぷんすこなるけど、とりあえず奴の話を聞いてみることにした。

タタミ

何処かの社長の発案で作った『飼葉コーポレーション』の『トークゲーム』。今の日本にはこういうのがステキじゃないか? って考えだされたゲーム、らしい。


 ほぉ。と、寝巻き用シャツ・ズボンのまま顎を撫でる緋色隊長。ちなみに、今は昼の12時を過ぎて陽は空高くにある。朝早くから畑に水撒きをしていた緋色隊長&タタミは仲良くおネムだったのだ。

 そして悔しいがネットの情報を元にするなら、タタミの言うそれは本当らしい。極めて悔しいが、プリントアウトしたものを皆へ差し出す。

緋色

おぉ!

ミャー!

 幾つかの声が上がる。何人かが興味を抱いてくれたみたい。楽々ちゃんちょっと鼻が高い。

【ゲーム『ネーム・ポーカー』ルール。

 基本ルールは、トランプの『ポーカー(ドローポーカー)』のルールを順守、とする。ただし、カードの変更は無し。万能札『ジョーカー』の使用を認める。

 使用するのは、紙とペン。

 お互いが、自分の『家族』もしくは、『密接に関わった生き物』の名前を『カード名』に使用することが出来る。この名前には『敬称は含めない』ものとする。

 カードに使用する名前は、『5名』。そして、役には『最大2つ』の名称、プラス規定のワードを使用する。

『スート』は、『名前に含まれる、英字、日本語での、スペード、ハート、ダイヤ、クラブ』を使用する。また、強さの序列にも上記の順を用いる。そして、名前に『スートに因んだ【ワード】があった場合、それもスートの代わり』として使用できる。

※例※
 スペード、『剣』
 ハート、『心』、『命』
 ダイヤ、『宝石』
 クラブ、『緑』、など。

 スートを持たない名前には、『最大3枚まで、【クラブ】のスートを指定』する。スートを持たない名前は、4枚目以降、指定した順に、『ダイヤ』、『ハート』を選択する。

『数字』は、『A』を1番強く『2』を最弱として、『名前に含まれる、英字、日本語での、【数】を意味するワード』を使用する。数字のワードを持たないカードは、『カス』として扱われ、2よりも下位のカードとして扱う。『曖昧なワード』に関しては、対戦者との理性的な対話で以て柔軟に対処する。

 もし、『名前の書かれた生き物と、完全に同一個体の生き物の名』があった場合、それを、『どちらかの持つ数字と、同じ数字』として用いることが出来る。

『カス』は、それぞれ『別個体の場合、【ペア】としては扱われない』が、『同一個体の場合、【ペア】以上になりうる』。

『役』は、カードに使用できる名前(家族、もしくは、密接に関わった生き物)以外にも、『自分の家族に関係のあるワード』を使用できる。役に使用できるワードは、最大2つまで。ただ、『ペア』・『カード』・『ストレート』・『フラッシュ』の名称はその限りでなく、役に自由に組み込み使用できる。名称を用いた2つまでの『ワード』と、先ほどの『自由使用のワード』を組み合わせ、『役名』とする。

 ただし『敵、対戦者の名前』は自分の用いる『カード名』、『役名』に使用することは出来ない。

 プレイヤーは、それぞれ『カードに使う名前』を5つ表記し、それの意味する、『スート』、『数字(orカス)』を明記する。そして『役に使う名称』も表記し、その最終決定した『役名』を紙に明記する。

 プレイヤーそれぞれが、各々の書いた紙を見比べ、勝敗を理性的に決する。以上】

緋色

……なるほど、面白そうだな。


 顎を撫でながら緋色隊長が言った。ちなみに、シャツは白い『猫ちゃん柄』だ。

楽々

そいでさそいでさ、うちのメンバーで作ったらどんな手が最強かな? って、私考えちゃって、さ!


 悩んだ末に緋色隊長が口にした。

緋色

まぁ普通に考えて、市原創(いちはら つくる)『A』、市原祈(いちはら いのり)『A』は、使うんじゃないか?


 そこで私は、考えに考え皆に公表するまでとっておいた最高の役を披露した。これは流行る!

楽々

ねぇねぇ、楽々ちゃんすごいの考えたのよ! 言霊みれいの『み』(3)、みぃちゃんの『みぃ』(3)、そして、我らが切り札! 『ジョーカー』ってのは! こ、これで、総隊長姉弟と合わせて、『フルハウス』の手が見えたさ!


 だがしかし、この楽々ちゃんの『最強絶叫必殺奥義』に、みれい副隊長が首を傾げた。ぽりぽり、その長い髪をくるくると、指で。

みれい

うーん?

って。

 悪しき邪神(よもつがみ)タタミも降臨なすった。邪神のくせに仏頂面で私の前に立っている。黒い『うさちゃん寝巻き』で。

タタミ

その『み』はグレーゾーン。わたしが対戦者ならきっと認めない。『みぃちゃん』なら、かろうじて認めていいけど。だけど却下。


 邪神ウサギ仏様は半開きの細い目で、ぶつぶつ、仰っている。

タタミ

……ただね。『わたし達(タタミ&真衣)』と、『ジョーカー』なら、本当に『フルハウス』の役が見えるかも。


 それに異論を放ったのは、誰でもない、我らが『猫シャツヒーロー』だった。

緋色

いや、待て。


 ヒーロー様の言葉に邪心仏がその目を開眼させる。もしかして、こいつ、今の今まで本当は寝てたんじゃ……。と、ある意味確信的な疑惑が産まれた。

緋色

『フルハウス』の名称、何処から引っ張るんだ?

タタミ

あ。


 その言葉に、開眼した仏様は、眠ったフリをした。とか。もう開いているのか開いていないのか分からない目をしている。

 兎にも角にも、考えさせられるゲームだった。楽々ちゃんはこのゲームを作った人を『データ○ースト社』の『チェル○ブ』作った人の次の次くらいに尊敬しようと思ったのさ!

【2034年、アラスカ『ホーム』。グリーン・ブラザー】

ブラック・ダド

いやー、なかなか上手くいかないものだね。ゲームというものは。


 父『ブラック・ダド』が、新聞を片手に悩んでいる。時折手に取るコーヒーカップは、みるみるその中身を目減りさせていた。

レッド・ボーイ

おい、『ブラザー』!


 リビングで寛ぐボクらへ『レッド・ボーイ』から声が掛かる。『ボーイ』は、その手の携帯ゲームを見せてボクへ言った。

レッド・ボーイ

俺の『PZP エターナル』やらないか? 最近のFPS全部突っ込んであるんだ。最高にいいぜ、こいつは♪

ピンク・ガール

えぇ~。そんなの何処がいいの~? 『ガール』ゲームはよく分かんないんだよね~。

 優雅に、とは言い難い、だらしない姿で『ピンク・ガール』がソファに横たわっている。

ピンク・ガール

どうでもイイよぉ。

『ガール』が体を転がしながら言っていた。

レッド・ボーイ

こいつVR(ヴァーチャルリアリティ)積んでるから、こうPZPを振り回すと、まぁ、『ガール』もやってみろよ!


 無理やり押し付けられた『ガール』が、そのゲームを手に、身体を捻る。その目にした映像に、本気でビビッていた。身体を転がし転がし、何処にも逃げられないでいる。

ピンク・ガール

うわ、ぞ、ゾンビがこっちから! 後ろからも! ちょ、ちょっと! これ、むっちゃ怖いやつ!


……すごい臨場感だね。ボクはそういうモノを買うお金が無くてさ。


 お茶を啜っていたボクの肩に腕を回して彼『レッド・ボーイ』が歯を晒した。

レッド・ボーイ

大丈夫だ、『ブラザー』!


 この肩を、ドン、と昔からの友人である『あの彼』がしてくれたように小突いて、頭の帽子をキメてみせる。

レッド・ボーイ

これからは『ダド』が何でも買ってくれるさ! な! 『ダド』!


 大はしゃぎでゲームを手に、ソファを、果ては床まで転がる『ガール』を、『ダド』が納得のいかない顔で見ている。

ブラック・ダド

私は、そういう、酔うようなモノはあまり好かないのだが、……今の子供たちはこういうものが好きなのかね?


ブラック・ダド

理解しがたいね。

ブラック・ダド

はぁ~。

 ため息を吐いて『ダド』は再び先ほどの新聞を手にした。

父さんはさっきから何を悩んでるの?


 構ってほしかったのだろうか? 新聞を放り捨てテーブルの対面に手を叩きつけ、ボクの顔を愛しい『ダド』が覗き込んだ。

ブラック・ダド

『ブラザー』。キミは良い子だ! よくぞ聞いてくれた!


 捨てた新聞を拾い直し、その記事の一部を指の背で叩いてみせる。

ブラック・ダド

先日私が考えたゲームなんだが、あまりにも、なんだ、売れ行きが良くなくて、な。

えっと。……『ネーム・ポーカー』?


 記事の欄に目を走らすと『ダド』が大仰なため息を吐いた。

ブラック・ダド

そうだ。今の子供たちは裕福でモノに溢れている。そんなんじゃダメだ。もっとこう、紙やペンで頭を使うゲームがいい。

知育ゲームってとこ?


 ボクの言葉に至極満足をしたのか、この手を取り大きく上下に振って『ダド』は喜んでみせた。そして、ゲームへ夢中になっている『ボーイ』と『ガール』を白々しく見ている。

ブラック・ダド

そうだ。話が分かってくれて嬉しい。それより、このVRとか何処がいいんだい? 私にはよく分からないね。


『ボーイ』が『ダド』を手で追い払いその脇のボクを呼んでいる。

レッド・ボーイ

『ブラザー』。おっさんは放っておいて、このゲームやろうぜ! 全視点に、銃を乱射しまくれて、もう最高なんだぜ!

ピンク・ガール

『ボーイ』! ちょっとあたしにもやらせなさいよっ!


 みんな、全てがボクにとって最高だった。ボクが望んだ『家族の姿』がここには在った。思わずココロにキタから、それを誤魔化すように、不機嫌な顔を浮かべる『ダド』へボクは話した。

父さん。父さんがさっき話してたゲーム。ボクなりに、最強の手を考えてみたよ。


って。それは実際本当で、まぁ、どんな駒を使っても、『66億の家族』を持つボクらに勝る手は無いだろうけど、ぱっ、と思いつく最良の役を提示する。

ブラック・ダド

……ほぉ。で、どんな手だい。


まずは、

 指を立てて天国の彼を示す。

先日殺った『スペード・ワン』。こいつはそのまま使えるだろ?

ブラック・ダド

うむ。

 
 席に着いた『ダド』が頷いてみせる。

ブラック・ダド

直々(じきじき)に仕留めたのだから、『密接な関係』だね。

そして、当然『ジョーカー』、父さんも手に加える。

ブラック・ダド

まぁ当然だね。

と『ダド』は再び顎を縦に振った。

パープル・マム

……。

『パープル・マム』がスイムから帰ってきた。歩み手に取ったタオルでその長い黒髪を乾かしている。

 彼女『マム』がボクはどうにも気になった。いつも仲の良い『ホーム・ホルダー』において、彼女だけはその一線を越えようとしない、ように見えたから。その背をボクはいつも追いかけていた。ボクを視ている父の目に気づき、

ごめん。

 謝り、先ほどの続きを話す。

そしてこのゲームにも、当然彼が『使える』わけだよ。


 ボクの、その答えを待っていたのだろう。とても満足そうな笑みで『ダド』はボクを観ていた。

ブラック・ダド

完成したのかい? 彼が。


 頷いてみる。

まぁね。


『ホーム・ホルダー』の本拠地たるこのアラスカの施設を、顎をしゃくって示してみせた。

最強の生命体にて最強の人(ヒューマン)『化喰人魔(ばくら じんま)』。さっき出来上がったんだ。


 ボクの応えに父『ブラック・ダド』は、本当に嬉しそうな笑みで応えてくれた。

本当に最強。そう謳われて当然の生命体、……がね。

 そう。それこそがボクの作った『ホーム・ホルダー(支配者)』の為の最高傑作(キメラ)だったんだ。

【第11話】ネーム・ポーカー。

facebook twitter
pagetop