小さな声を上げたのはジュピター。
いつもの冗談だと思ったハルは、普段通りの調子で声を掛ける。
小さな声を上げたのはジュピター。
いつもの冗談だと思ったハルは、普段通りの調子で声を掛ける。
今はそんな冗談きついっすよ~
…………
無言のジュピターを見て、ハルの表情が変化していく。
な、何でっすか!
爺ちゃんみたいに
強くなりたいって
言ってたじゃないっすか!!
泣きそうな目でジュピターに訴えるハルは、自分でもどんな感情を表していいか分からずにいた。
それでもうつむいている無言のジュピター。
他のメンバーも何故、ジュピターがそう言ったのか全く見当がつかなかった。
言いづらい事もあるでしょう。
自分にしか分からない理由も
あるかもしれません。
誰にも責める事など出来ませんし
責めるつもりもありません。
ですから出来る限りで良いので
話されてはいかがでしょうか?
コフィンが優しくフォローの言葉を添えると、ジュピターは普段見せない思い詰めた眼で話し始めた。
オイラァ、
このままじゃ全然ダメって
気付いたんだ。
……雑魚は蹴散らせても
少し強い敵に出くわすと
歯が立たない。
ちょっと剣が使えるくらいで、
打たれ弱いし決定力がないんだ。
ユフィ達同じパーティの者達は、確かに思い当たる節がある。剣技に目を見張る部分もあるが、完全に否定も出来ない。
…………正直言うと、
ハルに嫉妬してるんだ。
……どんどん強くなるハル、
下手くそでダメージ受けても
前に出るハル、
土壇場で強いハル、
そんなハルを見てて、
オイラ自分が情けなく
思えてきたんだ。
ジュピターはずっとそんな気持ちを抱えていた……。初めから一緒に戦ってきて、そんな事も分からない自分を、ハルは胸中で恥じた。
自分の方こそ、
ジュピターが凄く
輝いて見えたっす。
上手いし速いし、
ちびっこいのに断然強い。
すげぇ強い有名な爺ちゃんが
いんのも羨ましいなーって。
うちの爺ちゃんは、
酒ばっか呑んでるっすから。
ははは。
力なく語るハルは続ける。
ジュピター、
ビビっちゃったと思ったっすけど
そうじゃないっすよね?
そうなら一緒に
進んで強くなるっす。
懇願するような言葉に、ジュピターは即答する。
ビビるか。
――もっともっと強くなる。
だから一度原点に戻る事が
必要だって思うんだ。
もう一度……
もう一度ジッちゃんに剣を……
ジッちゃんの剣を教わる!
ジュピターの祖父ジンは、有名剣士。『絶糸(ぜっし)』という剣技を引っさげ、名を轟かせた男だ。
おそらくジュピターは『絶糸』を教わる気だろう。一緒に戦ってきた仲間なら、それは誰にでも分かる事だった。
今、思い付きで言葉にしたわけではない。ジュピターの決心の前に、誰もそれを否定する事は出来なかった。
そしてジュピターは泣き出しそうなハルに、笑顔で話す。
なーに泣きそうな顔してんだよ。
すぐに戻ってくるから……、
オイラが帰って来るまで
やられんじゃないぞ。
既に涙でぐしゃぐしゃになったハルが、何度も何度もうなづく。言葉はなくスマートと言えるものではなかったが、深い決意を胸に刻むハルだった。