シュー

…という訳で…入ってくれ!

 シューが宿の入り口に向かって声を掛けると、商人姿の男が中に入ってきた。

どうもこんにちは。私は………って…その黄色い髪の毛と銀色の鎧……まさか…アルモなのか!?

アルモ

その声は……同盟本部のザイール!?

 アルモとザイールが互いに顔を見合わせて驚いている中、シューとサリットは『やっぱり』といった表情を見せ、ウンウンと頷いていた。

アコード

シュー…この人がアルモの知り合いだって、分かっていたのか?

シュー

いいや。全く

サリット

この人と、ちょっとしたやりとりをしている中で、ベルトのバックルに三日月同盟の紋章が描かれていることに気付いたものだから…

アコード

そうだったのか…

ザイール

それにしても、アルモ…よく無事でいてくれた

アルモ

…あなたも、あの混乱の中、よく無事で…

ザイール

本部で何があったのか、知っているのか…

アルモ

その質問に答える前に、私の…いや、私たちの仲間を紹介させて欲しいの

ザイール

…これは失礼した。私はザイール。とある組織の一員で…

アルモ

ザイール。ここにいる3人は、全員同盟のことを知っているわ

ザイール

…なるほど…では、話は別の場所でした方がいいな…

アコード

それじゃ、俺とアルモの部屋で話をしよう

シュー

それがいい

 俺とアルモの部屋に、全員が移動する。

ザイール

さて…改めて自己紹介をしよう。私はザイール。三日月同盟本部の総帥代理を務める者だ

サリット

総帥…同盟の中で、一番偉い人の代理ってこと?

ザイール

まぁ、肩書上はそういうことになるのだが、元来三日月同盟に階級は存在しなくてね…同盟の創始者で、アルモの先祖である光の騎士クレスが、そのように同盟の理念を定め設立した組織だからね

アコード

それで、アルモもザイールのことを『総帥』とは呼ばなかった、という訳か

アルモ

同盟設立の理念とかは、初耳だったけどね…

ザイール

話していなかったか?

アルモ

ええ。ただ、これまでそういう話題にはならなかったし、私も特に疑問に思ったことはなかったから…

ザイール

そうだな…

アルモ

それより、フォーレスタ村の通信鏡で、本部が襲われているところを見たの

アコード

本部は、一体どうなっている?

サリット

その…ザイールさんが総帥代理ということは、総帥本人もいるわけですよね?その人は…

ザイール

…総帥を始め、予言の巫女や兵士団長…私以外の本部の人間は、全て教団の将軍ヴァジュラによって殺害された…

アコード

ザイール

ヴァジュラは、同盟本部に創設時から受け継がれている『光の盾』を強奪しに来たのだ

アルモ

光の…盾?

ザイール

ああ。光の騎士クレスと、教団の始祖ワイギヤが使っていたという、神から賜りし武器や防具…つまり聖遺物(アーティファクト)の1つを、同盟本部が受け継いできたという訳さ

アコード

その、聖遺物の1つを狙って、教団が本部を襲ったという訳だな

アルモ

…それで、その光の盾は無事なの?

ザイール

光の盾の所在は、代々同盟の総帥となった者にのみ伝えられている。つまり、私にはその所在が分からないのだよ…

ザイール

光の盾は、特殊な結界によって守られていると聞く。つまり、本部を襲った教団の兵が、光の盾を見つけることは困難という訳だ

シュー

それなら、とりあえずは一安心ということだな

ザイール

ああ

アルモ

でも、特殊な結界に守られているとは言え、本部にあるという光の盾をそのままにしておく訳にはいかないわよね…

アコード

確かにその通りだ。ザイール殿…どうにかならないのだろうか?

ザイール

…クレスの力が覚醒し始めた今のアルモなら、その所在を掴むことができるかも知れない

アルモ

それは本当!?

ザイール

ああ。アルモが今持っている『月明かりの剣』も、元々は本部に伝わる聖遺物の1つだったんだ

ザイール

アルモの育ての父ソレイユが、予言の巫女のお告げでアルモを探し出し、本部に連れて来た際、それまではただの鈍(なまくら)だったその剣が、急に光を帯び始めたんだ。恐らく、クレスの子孫であるアルモに反応したんだろう

ザイール

だが、その時光の盾の封印は解除されなかった。恐らく、光の盾の結界はクレスの子孫であるアルモが力をつけないと、解除されないようになっているのだろう

シュー

…本部を襲った教団の軍隊は、今どうなっているんだ?

ザイール

私は本部から命からがら逃げた後、遠くから本部を偵察していたが、2・3日前に本部から撤収したのを確認済だ

アルモ

…なら、今日はとりあえずこの宿で休むとして、明日、本部に向けて出発しましょう。アコード、それでいいわよね?

アコード

アルモ

アコード!?

アコード

えっ!?……あっ………ああ。それで構わない

アルモ

???

サリット

…アコードも疲れているようだし、私とシューは部屋に戻るわ。ザイールさんも、この宿に泊まるの?

ザイール

いや、私は遠慮しておくよ。この街に、私は複数個所身を潜められる場所を持っているからね

アルモ

わかった。それじゃ、明日の朝、北門前集合でどうかしら

ザイール

了解した

シュー

アコード…大丈夫か?ゆっくり休めよ!

アコード

シュー!俺は大丈夫だ。ありがとう

サリット

それじゃ、また明日ね~

 俺とアルモ以外の3人が、部屋から出て行く。

アルモ

…アコード……本当に大丈夫?途中から、上の空だったんじゃない?

アコード

アルモ……いや、何でもないよ

アルモ

何かお腹の中に入れれば、少しは元気になるかも…私、食堂から軽食を貰ってくるわね!

アコード

…ありがとうアルモ!

アコード

……この展開、確かどこかで……

 その後、俺は奥歯に物が挟まったような感覚を払拭できず、翌朝を迎えていた。

 そして、ザイールを加えた俺たちは、滅ぼされた三日月同盟本部に向かって歩を進めることとなった。

第8話 に続く

Episode7「三日月同盟」第7話~本部に隠されたもの~

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