…ヴァジュラ様!!

ヴァジュラ

…お前か

 月明りの届かない漆黒の闇の中、教軍の密偵が姿を現す。

首尾は?

ヴァジュラ

上々だ

それはようございました

ヴァジュラ

私は当初の予定通り、このまま奴らに同行し、アーティファクトの奪取・破壊を試みる。教団本部にもそのように伝えよ

かしこまりました

ヴァジュラ

私の隊も、予定通り行動するよう、副長に伝えてくれ

お任せ下さい!!

 刹那、密偵は姿を消した。

ヴァジュラ

…教団のためにも、クレスの遺品を見つけ出し、破壊せねば…

 ワイギヤ教軍によって滅ぼされた三日月同盟本部は、グルン大陸の中央にある王都グルンニード近くの山中にある。

 ザイールを加え、町を出た俺たちは、途中何回かの野宿を経て王都グルンニードに到着していた。

シュー

…教団本部の場所が分かっているのに、何ですぐに向かわないんだ?

サリット

シュー!何言ってるのよ!!

シュー

??

サリット

いきなり行って、教団の軍隊が駐屯していたら、どうするつもり?

シュー

…確かに…

アコード

サリットの言う通りだ。ザイール殿。教団の軍隊がまだ本部に駐屯している可能性は?

ザイール

ああ。十分にあり得るな

アルモ

ヴァジュラとかいう将軍がどんな攻め方をしたかにもよるけど、うまく攻めれば100人位は駐屯できるはずよ

アコード

…それじゃ、もし占領された本部に教団の軍隊が駐屯していれば、俺たちは『飛んで火にいる』なんとやらって訳だな…

サリット

そういうことね

ザイール

街の様子を見る限り、王都は無事なようだ。とりあえず、今日は王都の宿で英気を養い、明日、数人で偵察に行くのはどうだろうか?

アコード

…決まりだな

アルモ

偵察は、私とアコードで行こうと思う。私は本部の詳細な場所を知っているし、万が一戦闘になったとしても、私とアコードなら凌げると思うの

サリット

…確かにフォーレスタ村がコボルトに襲われて、それを撃退した時も、初見だったにも関わらず、アコードとアルモの連携は息ピッタリだったものね…

アルモ

ザイールも、それで良いわよね?

ザイール

そうだな…どのみち残って王都の情報収集もしておかなければならないし…それがベストだろう

 そんな会話をしながら王都グルンニードを歩いていると、いつの間にかザイール行きつけの宿の前に到着していた。

ザイール

さぁ、今日はここで休むことにしよう

アコード

…入った瞬間、教団の軍隊が飛び出してくる、何てことは…

ザイール

大丈夫だ。ここの宿は、同盟とは全く無縁の宿さ。それに、宿泊の予約なんてしていないしな

アルモ

…それなら安心ね

アコード

ああ。だが、万が一ということも考えられる。落ち着くまでは、いつでも戦闘できるようにしておこう

サリット

そうね

シュー

分かった

 こうして俺たち一行は、グルンニードの宿で一夜を明かすことになった。

 そして、その日の夜のこと…

 風呂に入り、夕食を終えた俺は、アルモと部屋でくつろいでいた。

アルモ

ねぇ、アコード

アコード

ん?何、アルモ…

 俺は読み進めていた本のページにしおりを挟むと、テーブルにそれを置きアルモを見た。

 アルモは、開け放された窓から入る涼しい風に、その綺麗な金色の髪をなびかせながら、こちらを見ていた。

 すると、アルモは急に頬を赤らめ、途切れ途切れになりながら、声を出した。

アルモ

…その………港町……でのことだけど………さ……

アコード

…港町?

アルモ

…うん……

 その瞬間、記憶の彼方に置き去りになっていた、アルモとのはじめての記憶が鮮明に思い出され、俺の顔は熟したトマトのように真っ赤になった。

アコード

あっ……ああ、あのことか…

アルモ

…あのこと……って?

アコード

…酒場のことと……ワイギヤ教軍に袋小路で追い詰められた時のこと……だけど…

 俺の言葉に、アルモは黙って首を縦に振る。

アルモ

あの…ね……私、どっちも嬉しかったんだ。酒場では、君と同じものを飲んで食べて、同じ時を共に生きているってことが実感できし、袋小路のあれは、咄嗟の判断からだったけど、その…君と一つになれた気がしたから…

アコード

アルモ

迷惑……だったかな………

 アルモの顔に、一瞬陰りがさす。

アコード

…迷惑!?何でそんなこと言うんだ!!

 思わずあげてしまった大声に、アルモの顔から陰りは失せ、きょとんとしている。

アコード

そんなこと、言わないでくれ!!!俺だって…その……

アルモ

君だって……何?

アコード

……嬉しかったんだ!酒場のことも…それに、袋小路でのことも!

アルモ

…なら……良かった

 輝く太陽のような笑みを浮かべるアルモ。

 それを見た瞬間、俺の体は勝手に動いていた。

アコード

アルモ

 俺の両手から、赤く色づいたアルモの頬の熱が伝わってくる。

アコード

…これで……お相子…だろ!?

アルモ

…君って………案外意地悪だったんだね

アコード

…嫌か?

アルモ

別に♪

 その後、他愛もない会話の後、旅の疲れからか二人ともいつの間にか寝てしまったのだった。

 そして翌日、俺とアルモは三人を宿に残して、王都近くの山中にあるという三日月同盟本部を目指し出発したのだった。

第9話 に続く

Episode7「三日月同盟」第8話~王都の宿にて~

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