シュー

サリット……その…もう、いいんじゃないか。これ以上は…

 顔を赤らめながら、シューがサリットをたしなめる。

サリット

………そうね……

アコード

アルモ

 その場の全員が頬を赤らめ、そして沈黙という名の空気が支配する。

アコード

まぁ、俺とアルモの話はいいとして…そっちの収穫はどうだったんだ?

 場の空気を打破するため、俺はシュー・サリットペアが集めてきた情報を聞くことにした。

サリット

…そうね……アコード達が居た市場側から逃げてきた商人に、話を聞くことができたわね

 遠くから、砂煙が上がっているのが分かる。

シュー

…サリット!あの砂煙の方角って…

サリット

ええ…アコードとアルモが向かった、旧市街地付近ね…

シュー

一体、何があったんだろうな…

サリット

…それを確かめるには、当事者に聞くのが一番ね

 そう言ってサリットが合図を送った先には、膝に手をついて『はあはあ』と息を切らせている商人の姿があった。

サリット

…大丈夫ですか?

シュー

まぁ、これでも飲んで

 サリットが話しかけると同時に、俺は懐から竹筒の水筒を取り出す。

…いいのかい?

シュー

はい。宿から持ってきた、ただの水ですから

それはありがたい!それじゃ遠慮なく!

“ゴクゴクゴクゴク…”

サリット

ところで、何があったんですか?

…お前さん方は、旅の方とお見受けするが…禁制取引って、知っているかい?

 俺とサリットは、同時に首を横に振る。

ワイギヤ教団が、宗教上若しくは道徳上取引を禁止している物品を取引することさ

シュー

それって、例えばどんなものなんです?

貴重な動植物の体の一部とか、他教の神の偶像。あとは奴隷や子どもといった『人』だな

俺は貿易商を営んでいるんだが、積み荷の中にたまたま偶像が混ざっていてな…それを見た監査官に取り押さえられそうになったところを、間一髪で逃げてきたって訳さ…

サリット

…商品を置いて逃げて来たってことですか…それじゃもう商売は…

何。それは心配いらないさ!

“ジャラジャラジャラ…”

 そう言うと、商人はローブの懐を俺たちに見せる。

シュー

!!よくもまあ、そんなにもたくさんの金銀財宝を、そのローブの中に隠し持てるもんですね……

こういう商売をしている以上、何か起こって身一つで逃げたとしても、再起ができるように準備するのが普通だよ

サリット

はぁ…

そうだ!水のお礼って訳じゃないが…俺に何か手助け出来ることはないか?俺に話しかけて水をご馳走したのも、ただの親切じゃないんだろう?それに、お二人さんからは、ただの旅人とは思えない何かを感じるんだ…

 とっさに身構えるサリット。

 だが、俺はこの商人が俺たちに害を成す者には思えず、サリットに合図を送って構えを解かせた。

サリット

なら1つ…数日前、この大陸の中央にある王都で、何があったのかを知りたい…

何があったのか…って、別に王都はいつも通り平和そのもので…

シュー

いや、そんなことはないはずだ!夜半過ぎに、大きな騒ぎがあったはずだ!!

 刹那、俺の喉元に得物の切っ先を当てる商人が、目の前に立っていた。

 そして、その商人に今にも飛びかかろうとするサリットを手でおさえる。

お前らは…教団の遊撃部隊か!!

 その瞬間、それまでローブのたるみで隠されていた商人の腰元が風で煽られ、アコードやアルモの剣の柄にある三日月の紋章と同じものが描かれた、ベルトのバックルが見え隠れする。

シュー

…この商人は…間違いない!秘密結社『三日月同盟』のメンバーだ!

サリット

…もし、教団の遊撃部隊だったら、あなたの話を聞いてすぐに取り押さえると思うけど?

 冷静さを取り戻し、状況を分析したサリットが的確な答えを相手に投げかけた。

 俺の喉元から、獲物の切っ先が遠退いていく。

確かに、それもそうだ…

サリット

…信じてもらえたかしら?

ああ。お嬢ちゃんの言うことを信じるとしよう

シュー

それで…それだけ教団を警戒している、ということは…

ああ。間違いなく、夜半過ぎに起きた騒ぎのことについて、俺は情報を握っているよ

だが…その情報を知って、お前たちはどうするつもりだ?お前たちに有益な情報とは限らないぞ?

サリット

…あなたがしている、三日月型のベルトのバックル。あまり見ないものね…それ、どうしたの?

 俺は、そのベルトをしているだけで、三日月同盟のメンバーだと断定していた。

 だが、サリットはわざと吹っ掛けるような質問を投げかけ、それを確認しようとしている。

 流石、というか、抜け目がない、というか…

これか?これは、だな………その……

シュー

…サリットの質問に、明らかに動揺している…ということは、やはり…

サリット

答えたくないなら、別に私たちに言わなくてもいいわ。ただ、私たちの宿に同行してもらえないかしら?私たちの連れが、きっとあなたに用事があると思うから

…どういうことだ?

シュー

もし、水の恩がまだ有効だというなら、俺たちと一緒に来て欲しい、ということさ

一飯の恩は、犬も忘れないという…よし、お前たちの連れとやらのところに、連れて行ってもらおうか

 こうして俺とサリットは、道端で助けた、三日月同盟のメンバーと思しき商人と共に、宿に戻ったのだった。

第7話 に続く

Episode7「三日月同盟」第6話~出会い~

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