美咲に歩幅を合わせ、道路側を歩いていた敬一が足を止めた。
 完璧な敬一の所作に美咲は再び腹が立って来たが、何も言わずに同じように足を止める。

敬一

……この辺りで良いかな?

 敬一が視線を向けた先には結月と明彦が向かい合って立っている。
 彼が今から何をしようとしているのか美咲は悟り、小さく呟いた。

美咲

……盗み聞きなんて悪趣味

 しかしそう言う美咲の視線は敬一から外れており、その場から動こうとする様子は無い。
 又口調にもそこまで棘は無く、彼を咎めようとしているようには映らない。
 その美咲の様子を見ながら敬一は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

敬一

旗仲さんがこのまま帰るって言うなら俺も従うけど?

 そう言う敬一を美咲は思わず睨んでしまった。

美咲

ユズちゃんと明彦君の様子は私も気になっていて、出来る事なら見守っていたいなんて……わかっている癖に

 敬一のこういう所が美咲はどうも気に入らない。
 しかしそんな美咲の心情等気にする様子も無く、敬一はサラリと言った。

敬一

1人より2人の方が罪悪感が軽減されるって……そう思わない?

 言いながらもその視線は美咲から外れている。
 お陰で彼がどんな表情をしてそう言っているのか、美咲にはわからなかった。
 だからこそ彼が今……本心から話しているのが何故かわかった。

美咲

神谷君ってさ……凄くお節介だよね。ま、私からするとどうでも良い話だけど

美咲

さっきだって2人に嫌われそうな対応取りながら結局2人を助けたし、こうして本音を言葉にしている時は絶対こっちを見ない

 静かに返す美咲を敬一はまだ見ない。

美咲

それからすっごく不器用だよね。
馬鹿みたい

 続ける美咲と敬一はやっと視線を合わせた。
 面白がるような表情を浮かべつつ、言う。

敬一

それは褒めてるのか貶しているのか……どっちかな?

美咲

さぁ、自分で考えたら?
どうせ私の表情から全部読めるんでしょ

 言いながら美咲はそっぽを向いた。

美咲

本当にムカつく。
だから絶対素直に言ってやらない

 本当はそんな敬一の事を少し眩しく思う自分が居る。そしてそれが悔しい。

美咲

本当嫌い

 悔恨の想いはそんな言葉に集約された。

美咲

そんな事ばっかり言ってると……1人だけ悪者だと思われても知らないから

 小さく呟いたつもりだが、敬一にはしっかり届いたらしい。

敬一

旗仲さんこそ……不器用でお節介だと思うよ。
まぁ俺にとってはどうでも良い話だって言うんだろうけど

美咲

フンッ

 美咲は再びそっぽを向いた。

敬一

でもまぁ……有難う。
旗仲さんは……優しいね

 そう言う敬一が穏やかに笑っている事に美咲は気付かなかった。

1-15 邪魔者達の競演(修正完了)

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