和やかな雰囲気が辺りを包んだ頃、何の脈絡も無く敬一が口を開いた。

敬一

ところでユズちゃん、どうして今日は旗仲さんと待ち合わせ場所に?
友達になったその日に紹介したかった……という訳でも無さそうだけど

 突然の鋭い言葉に結月は詰まる。

結月

…………

結月

そういえばミサちゃんに朝の事について相談に乗ってもらったから……だったんだよね

 そう思えば呑気に自己紹介してたり会話している場合では無い事に気付く。

 突然黙った結月に明彦は心配そうな視線を送るが、そんな彼にも敬一が耳打ちした。

敬一

アキ君も他人事じゃないよ。俺が一緒に来た理由、忘れてないよね?

明彦

うっ……


 小声で明彦も詰まり沈黙する。

明彦

…………

明彦

ユズと仲直りがしたいからケイを連れて来たんだよな……俺

 そう思えば明彦も呑気に会話出来ている事にホッとしているだけにもいかない。

美咲

どうして神谷君って空気を壊すような事を平気で言えるの……!
絶対にわざとだよね!?

 美咲は思わず敬一に対して恨みがましい視線を送る。
 恐らく気付いている筈の敬一だが、知らん顔で彼は続けた。

敬一

何も言わないって事は俺に話す事じゃないって言いたいのかな

美咲

ちょっと神谷君!

 思わず美咲は静止するように声を上げた。
 しかし敬一のペースは崩せそうにない。

 ただ小声で美咲に言った。

敬一

心配しなくても大丈夫。俺に任せて

 そう言われれば、何か彼に考えがあるのだとわかる。
 敬一の事は気に食わないが、彼の頭の良さは、出会って少し話しただけでも痛い程わかった。
 

美咲

悔しいけど……ここは見守ろう

 結月と明彦の間に気不味い空気が流れた事に歯痒い思いになりながらも、美咲は成り行きを見守ることに決めた。
 それを理解したのか、タイミング良く敬一が口を開く。

敬一

まぁ確かに俺が気にする事じゃないか。関係ないし

 そう言いながら身を翻す彼に驚いたのか、明彦と結月が同時に呼び止める。

明彦

ケイ!

結月

ケイ君待って!

 声が重なった事で目を合わせられなくなっていた結月と明彦は思わず互いを見る。

結月

あっ……

明彦

あっ……

 そのまま2人は静止し、照れたように互いに目を逸らした。
 その様子はとても喧嘩中には思えない。

美咲

……何かこっちが恥ずかしくなる反応だな、2人とも……

 思わずそんな事を美咲が考えた時、敬一が振り返った。
 彼は結月と明彦の反応を見て、口元に笑みを浮かべる。

敬一

アキ君もユズちゃんもさ、本当は俺や旗仲さんじゃなくて……恋人に対して話したい事があるんでしょ?
でも何だか意識すると照れ臭くて勇気が出ないから……俺と旗仲さんを連れて来たんじゃないの?

結月

…………

明彦

…………

 敬一の言葉に結月と明彦は驚いたように固まった。

敬一

図星って感じかな。
小さい時から2人とも、互いに素直になれない所があったもんね

 敬一の言葉に結月と明彦が互いに詰まる。

結月

うっそうかも……

明彦

否定出来ないな……

 思わず呟いた2人に対し、敬一は呆れたように溜息を吐いた。

敬一

……駄目だよ、そんなんじゃ。
もう2人は徒の幼馴染じゃないんだからさ

結月

……!

明彦

……!

 敬一の言葉に結月と明彦はハッとした様子で互いに顔を見合わせ、同じように赤くなった。

美咲

凄い。何だかわからないけれど……解決したって感じがする。
様子が好転しているようにも見えないけど……2人はもう大丈夫だって気がする

 美咲が感心していると2人から静かに離れた敬一に軽く肩を叩かれた。

敬一

旗仲さん、俺と一緒なのは嫌だと思うけど……邪魔者は退散しよう。
暫く彼等は2人の世界から帰ってこないだろうから

 冗談めかして微笑んで見せる敬一に美咲は忘れていた苛々を思い出したが、黙って頷いたのであった。

1-14 天才旧友の企み(修正完了)

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