Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
セアト暦40年
英雄の輝石
28.流れるままに
これくらいあれば大丈夫じゃ
魔女は何を思ったのか、ラムダにいろいろなものを手渡していた。
傷薬の類から、本当に食べられるのかどうか怪しい食材、煙幕や針金、マッチなど細かいものまで。
そして極めつけは……
これは、蛇の毒を無効にする特殊な液がかけられている剣じゃ
お前に一番よく似合う
ラムダにとって、生まれてはじめて取る剣。
細身で軽いが、やや長い。
気のせいか刀身は仄かに赤くなっている。
魔女はうんうんと頷いているが、ラムダは身震いがした。
じゃあ、行くか!
ラムダたちのやり取りを横目に、ダイオスは軽いノリで言った。
レダは荷物を慎重に確認していたが、ダイオスに促され、慌てて荷物をまとめた。
ダイオスの声は聞こえたが、ラムダは剣をかざしたまま固まり、すぐに動けなかった。
あの……どうして……?
言ったじゃろ
お前に一番よく似合うからじゃ
何を考えているのかさっぱりわからない
しかし、魔女に渡されたものだし、持っていて損をするものでもない。
ラムダは、緊張しながら丁寧に鞘に収めた。
おいてくぞー!
遠くから聞こえたダイオスの声に、ラムダは慌てて追いかけた。
レダが大量の荷物を持っていて、彼はダイオスにも持つように手で持っている一つを差し出したが、ダイオスは拒否するように両手を頭の後ろで組んだ。
あのっ!
ラムダは、振り向きざまに魔女に言った。
ありがとう!
魔女が片手を挙げて応えると、ラムダもにっこりと笑った。
駆けて小さくなる背中を、魔女は静かに眺めていた。
さて。英雄を追うものもまた、英雄か
いいのか悪いのか
……フェシスはこれを望んだのかの
英雄は、己がそうだと全く気付かない。
知らぬがうちに崇められ、有名になっている。
そして、望まぬとも命の危険に晒される。
その流れの中で、フェシスは命を失った。
ラムダがこれからどこまで進むのか……
魔女の呟きは、誰にも届かなかった。
異紡ぎの森を出て、3人は街道に出た。
馬車でひたすら西に。遠くエメラルドの町を南に眺めながら、更に西へ。
何日もかけて、とにかく進んだ。
馬車が終点に辿り着くと、そこから歩いて森の中に入った。
大蛇に襲われた集落は、すでに壊滅していた。
……救えなかったの?
ラムダの呟きは、レダとダイオスに届いた後、空に消えた。
だから言ったろ、俺たちは敵討ちのためだけに動いている
この戦いは、誰も救えない
唯一、俺たちの心が救えるかな
ダイオスの言葉を、レダが引き継いだ。
ダイオスは風に吹かれながら、手近な木にもたれ、瞑想するように目を閉じた。
レダは、真っ直ぐにラムダの目を見た。
これは、俺とダイオスの戦いだけど、君は本当に来るのかい?
真剣なレダの声。
フェシスが命を落としたように、命がけの戦いなのだ。
腰に下げた剣が、気のせいか熱い。
ラムダは、躊躇いなく頷いた。