Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
セアト暦40年
英雄の輝石
27.最後の英雄伝
始まりは、もしかしたら普通でなかったかもしれない。
いつものように気ままに旅を続けるフェシスの後を、レダは従者のようについていく。
フェシスの後についていれば絶対に安心という信頼感もあった。
そんな生活に、終わりが来るなんて、思いもしていなかった……
その時たまたま立ち寄った集落の、リーダーだという男の話だった。
突然現れた大蛇が、森の奥の洞窟に住み着いてしまった
そして、森の果実や木の実、山菜など、自然の恵みを喰い尽くし、それだけでは飽き足らず、狩のために森に入った者達も喰われてしまった
集落に溜めてあった食べものは底をつきかけ、男手は減る一方で、困っているという。
話を聞いたレダとフェシスは、当然のようにその森へ向かった。
フェシスが悠々と前を行き、レダは気を張りながらついていく。
大蛇はいた。
レダの腰くらいの太さの蛇は、8mくらいの長さだろうか。
目を閉じ眠っているのだが、初めて出会ったその大きな存在に、レダは思わず身が竦んだ。
フェシスはニヤリと笑った。
フェシスはレダを下がらせ、腰に下げてあった太い剣を抜く。
そのままの流れで軽く空を薙ぎ払うと、風が起こり、緑が舞った。
その風を受けて大蛇がフェシスに気がつくと、鋭く細い目をぎらつかせ、細長い舌をチロチロと出しながら、ゆっくりと這うように近づいてきた。
そして大蛇が身を起こすと、見上げるほどの高さになり、レダたちを威嚇するように睨み付ける。
レダは、お守りのように胸元に下げていた玉石を握り締め、心を落ち着けた。
大蛇の睨みなど一切効かないフェシスは、剣を構え跳躍し、その勢いで振りかぶった。
フェシスを迎え撃つために大蛇が上を向き、口を開く。
すると、フェシスもレダもその口の大きさに驚いた。
正面からは捉えられないほど大きく、人なんて容易く丸呑みできる。
このまま落ちれば、剣で攻撃する前に喰われてしまう。
フェシスは身の危険を感じたが、空中ではどうすることも出来なかった。
機転を利かせたレダが咄嗟に荷物の中から引っつかんだ小刀を大蛇の首元に投げつけると、大蛇の注意がそちらに向いた。
目が合ったレダは震え動けなくなったが、着地地点が確保出来たフェシスが喰われることは回避できた。
そしてそのまま滑る肌に剣を突き立てると、レダからフェシスに注意を向けた大蛇は痛みで暴れまわる。
攻撃したフェシスを振り落とそうと、必死に身体を捻らせる。
フェシスが剣を抜くと、そこから血が恐ろしい勢いで噴出した。
聞いたこともないような、悲鳴のような叫びのような、そんな大蛇の声に、レダは顔を顰め、耳を塞ぎたくなるのを必死に耐えた。
フェシスの勇姿をこの目に焼き付けておかなければならない。
なぜかそんな直感が働いていた。
フェシスは、大蛇の攻撃を全て間一髪でかわしていた。
大きさの割に、かなりスピードがある。
フェシスがひょいと大蛇から降りると、大蛇は頭ごとフェシスに突っ込んだ。
フェシスは綺麗に避け、その場所に大蛇が埋もれるほど突っ込むと、湿った土が飛礫となってフェシスにもレダにも降りかかった。
大蛇はゆっくりと頭を抜くと、泥だらけの顔でフェシスを睨む。
フェシスは一度下がると、楽しそうに言った。
やるじゃねぇか
そしてニヤリと笑い、真正面から大蛇に突っ込んでいった。
それが最後になるとは思わずに……
その後、毒に侵されたフェシスを、レダが何とか背負って集落に辿り着いたんだ
レダもボロボロ。フェシスは危篤状態
とにかく、解毒が最優先だった
たまたま俺が集落に立ち寄ってて、このばぁさんのことも知ってたから、解毒剤作ってもらったんだ
だけど、遅かった
……
ダイオスが集落に戻ってきた時にはもう、フェシスは息を引き取っていた
ダイオスの言葉を、レダが引き取り締めた。
ラムダは、声が出せずにいた。
英雄がまさか、そんな死に方していたなんて……