月曜日、まったく授業に集中できないまま一日を過ごし、ようやく放課後を迎えた。
月曜日、まったく授業に集中できないまま一日を過ごし、ようやく放課後を迎えた。
それじゃあ、行こうか
うん
ふたりとも、リラックスリラックス!
秋帆の笑顔に、ありがとう、と返し、私と由宇は病院へ急いだ。
あら、ふたりとも、いらっしゃい
こんにちは、お久しぶりです
おばあちゃん、よかった、起きていられるんだね。なかなか来れなくて、ごめんね
いいのよ、時々でも顔をみせてくれるだけで、嬉しいから
穏やかな表情に、ほっと安心する。まだ、倒れたあの日から、それほど日数が経過したわけではない。油断はできないと、医者は言うそうだ。
すこしの雑談のあと、妙な沈黙が落ちた。……おばあちゃんは、なにかに気づいて、なにかを待っているような面持ちだった。
ああ、バレバレみたいですね……そろそろ、今日此処に来た理由をお話してもいいですか?
ええ、もちろんよ
由宇が隣で息を呑み、静かに話を始めた。
まず、報告から。花楓さんが入院している今の状態でも、時間を買うことは可能だって
そのためには、花楓さんの私物で、付き合いの長い親しみ深い品物が必要だって……
そう、なにか用意しなければいけないわね
その必要はないですよ
……どういうことかしら?
それは、花楓さん、あなたがいちばんよく知っているはずです
花楓さんが長年大切にしてきた結晶は、すでに時間屋にあるんですから
おばあちゃんが簡単になにかを話してくれるとは、思えなかった。
だから私たちは、切り札にもならないけれど、ひとつの仮説を立てて、それをまずおばあちゃんに突き付けることに決めたのだ。
つまり、時屋さんが言っていた、「すでにもらっている対価」とは、おじいちゃんが時間屋へ預けていた結晶のことなのではないか、と。
時間屋のことを知っていたのはおじいちゃんと由宇だけ。……おばあちゃんもそうだけれど、おばあちゃんが時間屋を訪れたことがないなら、結晶を取り戻すことのできた人はいないことになる。
それならまだ結晶は時間屋にある、はずだ。
そして由宇は、おじいちゃんが時間を売っているとき、結晶が削られていく様子をしっかりみていた。
それが対価となり、今もまだ有価なのではないか。
おじいちゃんは寿命という対価を支払っていた。それなら、おばあちゃんの結晶が削られる意味はない。
……意味があるとすれば。
穴だらけの仮説だが、きっとないよりはマシだ。
花楓さんは、舞花に時間屋へ依頼しに行くように頼む以前から、時間屋との契約者だったのではないですか?
おばあちゃんの死角で、由宇の手が震える。私はただ、おばあちゃんの表情をうかがっていた。
…………
面白いことを言うのね。なにかあったの?
…………
質問しているのは、僕のほうですよ
だって、そんな事実はないもの。不思議だから、理由を尋ねているのよ
そういう事実がないのなら、今の話はなかったことにしてください
じゃあ明日また来ますから、時間屋さんになにを持って行くか、考えておいてくださいね
ええ、面倒かけてごめんなさいね
いいんですよ。……舞花、行こう
あ、うん、おばあちゃん、またね
……全然、うまくいかなかった。きっと、想定していたんだろうね
由宇は、なにも気にする必要ないよ……任せっきりで、ごめんね
いや、いいんだ。僕が甘かった
とにかく、もうすこしなにか考えてみよう
第二十八話へ、続く。